〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン

『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ貮」感想&解説!圧巻のクオリティで魅せる”原初の物語”がここに閉幕!

どうもウハルです!

今回は〈物語〉シリーズのオフ&モンスターシーズン『業物語』の「あせろらボナペティ 其ノ貮」の感想&解説を語っていきたいと思います!

まず、今回の「あせろらボナペティ 其ノ貮」を見た率直な感想ですが…

圧倒的な作画のみならず、ひとつひとつの描写表現、キャラの感情やそのシーンと見事にマッチした劇伴、それぞれのキャラを演じられたキャストの方々の演技などなど、この作品を作り上げる全てのものが最高のクオリティ”を見せてくれたので満足度は抜群!

この〈物語〉シリーズの主人公である阿良々木暦役の神谷浩史さんは、アニメーションのことを”総合芸術”とよく話されていますが、今回はその芸術性の高さに魅了されっ放しでした!

さらに、この「あせろらボナペティ」で明かされるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが誕生するまでの物語もまた素晴らしく、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターという重要人物がいたからこそ彼女は生まれたんだと理解できる内容は、多くの驚きと発見もあって本当に良いエピソードにもなっていましたね

ということで今回は、そんな満足度抜群の『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ貮」の感想と解説を語っていきたいと思います!

なお、前回の〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズンの『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ壹」の感想&解説も語らせて頂きましたのでよろしければそちらも是非!

また、〈物語〉シリーズのアニメや原作小説についてまとめた記事もありますので、他の〈物語〉シリーズに触れてみたいと感じた方はそちらも参考にしてみて下さいね

『業物語』「あせろらボナペティ」とは?

著:西尾維新, イラスト:VOFAN

”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードってぇ名前は、俺様が考えてやった”
六百年ほど前、今はもう滅びた国に『うつくし姫』と呼ばれる女の子がいました。その美しさに誰もが命をささげ、彼女が歩く道は死体の山となりました・・・。
青春は、童話・・のように残酷だ。

原作『業物語』巻末より

こちらの作品はシリーズ通巻20冊目の作品になり、今回の「あせろらボナペティ」や前々回の「残酷童話 うつくし姫」も含めて4つの短編が収録された小説です

そして、今回の「あせろらボナペティ」は全20章からなる物語になり、「あせろらボナペティ 其ノ貮」は10章から20章までがアニメ化した形になります

『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ貮」感想&解説

アセロラ姫の意識改革

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

アセロラ姫を城へと招いたものの、呪いを解く方法についてはノープランだったスーサイドマスターは、トロピカレスクに助言を仰ぎますが、彼曰く、アセロラ姫にかけられているのは”呪い”ではなく、自身の身に元から備わっているものであり、言い換えればその『美しさ』は”祝い”のようなものだと話します

その話をした後、トロピカレスクは主に対してアセロラ姫の城への滞在をこれ以上反対することは諦めますが、その代りに体調を整えるべきだと伝えます

しかし、スーサイドマスターの意思は固く、空腹状態のこの腹の中に最初に入れるのはアセロラ姫にするのは決めたことだと彼に言いました

その言葉を受けてトロピカレスクは「承知いたしました」と主人の意向を了承し、彼女を食べる方法がないか探すよう努めると話して、玉座での会話は終わります

そしてその後、スーサイドマスターは更に二度ほどアセロラ姫にとびかかった挙句、あっけなく四度目、五度目と死を迎えてしまいますが、さすがに五度も死ねば現状のままでは駄目だと考え始めます

その結果、こちらが変わるのではなく、アセロラ姫自体の『美しさ』を変える意識改革へと路線を変更していくことを思い付きました

素材そのものの味を生かしたいところではありますが、食べやすくするためには調味料も必要

そのためにスーサイドマスターが提案した策と言うのは、『悪ぶる』ように振舞うこと

考え事をする時は腕組をし、派手な洋服を着て、食事も手づかみで食べる

さらに、自分の呼び方も「わたくし」から「儂」へと変えるようアセロラ姫に伝えます

その提案を飲んだアセロラ姫は、さっそく試してはみるものの、まだまだ不十分

しかし、その頑張り自体は認めるべき部分であったため、スーサイドマスターは”アセロラ姫”という名前も変えようと、新しい名前を考えることにします

アセロラ姫という、いかにもお上品でキュートな名前も、変えたほうがいいかもな。
こだわりはないようだし、何かふさわしいメニュー名を、俺様が考えてやるべきなのかもしれない

感想&解説

ノープランから始まったアセロラ姫の意識改革計画ですが、この辺りから少しずつ私たちの知っているキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの姿が見え始めてきましたね

「儂」という呼び方だったり、語尾に「じゃ」と付ける喋り方なんかはもはや聞き慣れたもの(笑)

そんなキスショットの定番とも言える喋り方はここから始まりました

この後にスーサイドマスターは名前も彼女に付けますが、そもそもの立ち居振る舞いも含めてスーサイドマスターが考えてあげたことだと思うと、本当にスーサイドマスターは彼女の”生みの親”と言えるような気がします

そしてここでは原作から解説を2つしていきます

まず1つ目が、『悪ぶる』以外に考えたスーサイドマスターの『美しさ』を隠す方法です

これに関しては、もしかしたら皆さんも考えた一つの策かもしれませんが、トロピカレスクから”祝い”の話を聞き、その可視化の魔法の件を聞いたスーサイドマスターは、「『美しさ』を見えなくする魔法をかければいいのではないか?」と提案しています

目には目、歯には歯、呪いには呪いというわけですね

しかし、その提案はトロピカレスクからは否定されていて、その理由としては、アセロラ姫が持つ”完全防御”のような力が強過ぎると話しています

呪いを含むあらゆる魔法は、『攻撃』と見なされ、術者本人に跳ね返ってくる恐れがあります――十中八九、そうなることでございましょう。完全防御。たとえば我々が、『うつくし姫』を『魅了』しようと試みれば、逆に我々が『魅了』されてしまうことに違いありません。

原作『業物語』より引用

さらに言えば、現在の状況が成り立っているのも、スーサイドマスターとアセロラ姫の利害が一見すると一致しているからだとも話していますね(「一見」の部分を強調しながら)

この辺りを考えると、こちら側が変わるのではなく、当の本人に変わってもらうという考え方に至るのも納得な気がします

次に2つ目ですが、アセロラ姫が語尾に「じゃ」と付けた経緯です

アニメでは「儂」については描かれていましたが、「じゃ」については描かれていませんでした

これに関して結論からお話すると、そもそも語尾に「じゃ」と付けようと言い始めたのはアセロラ姫です

彼女はスーサイドマスターの意図を早々に理解し、そこから自身でアイディアを出すという聡明さをここでは見せていました

わ、儂ですか……、はあ……。では、しゃべりかたそのものも、変えたほうがいいかもしれませんね……、もっと傲慢で嫌な感じの語尾に。

原作『業物語』より引用

ここからアセロラ姫は語尾に「じゃ」と付けることを思いついて、あの喋り方をするようになったというわけですね

ちなみに、これは余談でもありますが、『悪ぶる』ために喋り方を変えたアセロラ姫の決意のセリフは原作だともう一言あって、そこはちょっと面白かったです

今後わたくしは、いえ、儂は、なるべく下品に見えるように振舞うよう、努力します。するのじゃ。スーサイドマスター、あなたを見習って!

原作『業物語』より引用

これに対してスーサイドマスターは「最後の一言はなんとも余計」と言っていますが、確かにこれは余計でしたね(笑)

ただ、これはアセロラ姫の必死さも伝わってくるし、もともと周囲にそういった人間がいなかったことを考えると、お手本がスーサイドマスターしかいなかったんだろうとも思えて納得も出来るセリフではありました

スーサイドマスター直伝の笑い方

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

アセロラ姫を『悪ぶらせる』ことを聞いたトロピカレスクでしたが、その会話の最中にスーサイドマスターが餓死していることに気が付きました

少しの間とは言え、死んでいたスーサイドマスターは、それを誤魔化すようにトロピカレスクに情報収集の成果を聞きますが、その結果は芳しくなかった様子

現在は国民が全滅しているため、近隣からの情報収集は難しいと考えたトロピカレスクは、アセロラ姫の故国に足を運ぶことも検討していることをスーサイドマスターに話しました

その後、玉座を離れたスーサイドマスターはアセロラ姫の食事を運ぶために彼女の部屋を訪れますが、そこでとんでもない光景を目にすることになります

扉を開けたその先で、銀の燭台を両手に持ち、自身の片目にそれを突き刺そうとするアセロラ姫

その光景を目撃したスーサイドマスターは、咄嗟に体が動き、片手で銀の燭台を掴み取り、もう片方の手でアセロラ姫をベットの方へと突き飛ばしました

ベッドへと飛ばされたアセロラ姫は驚いたような顔を見せますが、驚いたのはむしろスーサイドマスターのほう

おもわず「命を粗末にするな!」と怒鳴りつけてしまうような行為は化物らしからぬ部分ではあったものの、今はそんなことを言っている場合ではありませんでした

ただ、アセロラ姫は決して命を粗末にしたかったわけではなく、自身に”ハク”を付ける為に海賊のように片目を潰そうと試みていたと話します

しかし、その行動はスーサイドマスターが看過できる範囲を超えており、アセロラ姫に説教をするような形で「二度とするな」と強い口調で伝えました

アセロラ姫も自身の行為の愚かしさを理解し、心の底から謝罪しました

そこまで来てスーサイドマスターはやっと周囲を見渡すだけの余裕が出来、アセロラ姫が散らかしたと思われる部屋を見回しますが、等間隔に並べられただけの洋服などを見る限り、制作者のセンスが隠しきれていない様子

これを見て、まだ先は長そうだと思ったスーサイドマスターは思わず「かかっ」と笑い声を上げますが、その笑い声を聞いたアセロラ姫はなぜ笑ったのか分からなかったので、スーサイドマスターにその理由を尋ねます

スーサイドマスターは”ハク”の付く笑い方を教える為に手本を見せたと話しますが、そこでふとスーサイドマスターは「彼女は笑ったことがないのではないか?」と思い、今度はスーサイドマスターが彼女に質問します

するとアセロラ姫は「迂闊に笑うと国が滅びますから」と冗談みたいな事実を話しました

それを聞いたスーサイドマスターは、「かかっ」という笑い方なら誰も死んだりはしないと話し、アセロラ姫は感謝の言葉と共に早速笑い方の練習を始めました

そんな彼女を部屋に残し、新たに料理を持ってくるために扉の周辺に散らかった料理を拾い上げようとした時、一つの違和感に気が付きます

吸血鬼にとって弱点でもある銀製のものを触った手は火傷していたものの、アセロラ姫を突き飛ばしたほうの手は全くの無傷

なにも跳ね返って来なかったことに不思議に思いながらも、スーサイドマスターは部屋の中から聞こえてくる拙い笑い声に、自然と頬が緩んでしまうのでした

感想&解説

ここでもまた、今のキスショットを感じさせる笑い方が登場しましたね

この辺りも彼女の代名詞とも言えるものではありますが、そこに至るまでの経緯は中々にシリアスな内容でした

自身を傷つけてまで『美しさ』を隠そうとする努力はいいかもしれませんが、目をえぐろうとするのはさすがにやり過ぎでした

そしてこの辺りから、スーサイドマスターがアセロラ姫に対して明確に情を持ち始めていることが分かるようなシーンにもなっているので、そういった意味だとかなり印象深いシーンでもありましたね

ここでの解説は原作から1つです

このシーンにてスーサイドマスターはアセロラ姫に食事を持ってきていましたが、これは前回の「あせろらボナペティ 其ノ壹」でスーサイドマスター自身が言っていたように、アセロラ姫の世話を自分でしているが故の描写になっています

これに関しては食事を運ぶといったことだけではなく、人間用の食糧の調達、料理、さらにはベッドメイキングに至るまでアセロラ姫の世話を一手にスーサイドマスターが行っていたんですよね

これらの行動に関してはアセロラ姫からも「自分の面倒は自分で見れます」と言われたみたいですが、スーサイドマスターは、それは怪しいと感じていました

というのも、アセロラ姫自身の育ちが良過ぎるのもそうですが、そもそも今まで一人で流浪の旅が出来ていたのは周囲のサポートが大きかったらしいです

彼女の場合、歩いているだけで周囲の人から貢ぎ物をされてしまうことが多く、着ていた服ですらも、すれ違う人からの貢ぎ物でした

ただ、これに関してはアセロラ姫も受け取らざるを得ない状況にはいて、捧げられる服を受け取らないと、命を捧げられてしまうという究極状態ではあったんですよね

そういった理由から、アセロラ姫の世話をつつがなく行っていくスーサイドマスターでしたが、その結果として、二度も死んでしまうという戦々恐々のお世話になっているのは言うまでもありませんかね

ちなみに、今や服を捧げてくれる国民もいないので、服やドレスもスーサイドマスターが調達してくるんですが、「何を着ても似合ってしまう奴にあつらえ甲斐はない」と原作では語っていましたね

一般的な童話に伝わる伝承とトロピカレスクの死

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

玉座にてまた餓死してしまっていたスーサイドマスターでしたが、今回はトロピカレスクにそのことがバレてしまいました

あまりに死に過ぎている主人を目の当たりにしたトロピカレスクは、アセロラ姫に愛着が湧いたのではないかとスーサイドマスターに問いかけます

その問いかけに返す言葉が思い浮かばなかったスーサイドマスターは、強引に話を変えるように情報収集の成果があったのか報告するように命令しました

トロピカレスクは不満げながらも、収穫は”ほとんど”なかったと話しますが、その”ほとんど”という言葉に引っ掛かったスーサイドマスターは、少しでも情報を掴んだのなら話すようにトロピカレスクに話を続けさせます

ただ、トロピカレスクが掴んだ情報と言うのは世間一般的な童話の類の伝承

「お姫様にかけられた呪いを解くには王子様の”キス”が必要」というものでした

その話に思わず一笑してしまうスーサイドマスターでしたが、あらゆる可能性自体は残しておいた方が良いとも考えます

それは自身の気持ちの部分も含めて

そこまで思い至った時に、ふとアセロラ姫の新しい名前もそろそろ決めてやろうとも考え始めていました

東洋の刀のように美しく輝く心を持つ彼女にふさわしい名前

そこでまた思いついたのが、先程の”キス”で呪いが解けるという話から、験担ぎとして、あるいは魔除けとしてその二文字を名前に入れておくのは悪くないということでした

そんなことを考えながら数日が経ち、スーサイドマスターは再び餓死から目を覚ましますが、最近はその頻度がかなり多くなってきました

その結果、目覚めたときは体力満タンだった体も、今や慢性的な疲労感に包まれており、絶食生活も限界に近づき始めていることに気付きます

そして、もう一つ気付いたのが、餓死して目を覚ましたら必ず目の前にいたトロピカレスクが今回はいないこと

その事に気付いたスーサイドマスターはアセロラ姫の部屋へと向かいましたが、時すでに遅く、部屋の中で呆然と立ち尽くすアセロラ姫は真っ赤に染まり、その周囲にはトロピカレスクの肉片の数々が散らばっていました

肉片の中心に立っていたアセロラ姫はスーサイドマスターを目に止めると、トロピカレスクも同じ吸血鬼であるのなら、この後生き返ることを願って質問しますが、スーサイドマスターは生き返らない事実を話します

その事実に落ち込むアセロラ姫でしたが、それはスーサイドマスターもいずれは死んでしまうことを意味しており、それが分かったアセロラ姫は城を出ていくことを決意します

スーサイドマスターは、トロピカレスクが死んだのはアセロラ姫のせいではないと話をしますが、アセロラ姫の意思は固く、説得は不可能でした

その意志を受け取ったスーサイドマスターは、説得は諦めたものの、「出ていくのはもう少しだけ待ってほしい」と伝えます

せめて食事が終わるまではそこを動かないでほしいと

「わかった、それでいい。もう止めない。好きにしろ。だが、それでも、少しだけ待ってくれ。俺様が食事を取る間だけ、そこを動かないでくれ――貴重な食材を踏まれたくない」

こいつを踏んでいいのは俺様だけだ。

そう言ってスーサイドマスターはトロピカレスクの破片に手を伸ばし、ひとつひとつ口へと運んでいきました

感想&解説

不死身の吸血鬼が死ぬというのは、正直な話をしてしまえば、「また生き返るんでしょ?」というどこか安心感のようなものがあったりします

しかし、ここで見せられる吸血鬼の死はそういったものではなく、どこにでもいる生き物に普遍的に存在する本当の死

ここでの描写はそういった安心感から一気に絶望感を味合わせるような感覚にさせらるほどに、悲痛さが漂う展開となっていたように感じました

アセロラ姫がトロピカレスクの死を前に呆然と立ちすくむ姿もそうですが、スーサイドマスターが眷属の死に直面し、それを認めなければいけないこの状況は、さらに悲しさを増していたような気がします

実はこのシーンは、アニメでは描写のみでしたが、アセロラ姫の「生き返るのですよね?」という質問に対して、スーサイドマスターが一瞬何も言わなかった時に考えていた内容が原作には描かれていました

「このかたも、すぐに、生き返るのですよね?」
「…………」
 答えたくなかった。
 事実を認めたくなかった。
 だが、俺様が認めたかろうと、認めたくなかろうと、事実は事実だ。
「生き返らない」
 俺様は認めた。

原作『業物語』より引用

確かに事実は事実ではあるものの、親しい者の死を実際に言葉にしなければならない悲しさは計り知れないものがありますよね

そういった悲しさの中で、その死を無駄にさせないために、肉の一つ、血の一滴、髪の毛一本に至るまで食らい尽くすスーサイドマスターは間違いなく”吸血鬼”でした

そして、「こいつを踏んでいいのは俺様だけだ」という最後までトロピカレスクを眷属として想っているこの行動もなかなか胸を打つものがありました

ここでの解説は原作から1つです

その1つというのは、スーサイドマスターはトロピカレスクの死をどれほど悲しんでいたかという部分です

アニメでは基本的に表情のみで、スーサイドマスターの語りはほぼカットされている状態でしたが、原作だとかなり自身の気持ちを語っている部分がありました

ここではそれを紹介しますが、その印象的な語りは2ヵ所あったのでそこを引用してご紹介しますね

まず1つ目は、餓死から目が覚めたスーサイドマスターがトロピカレスクがいないことに気付いたシーンです

 主人である俺様が、奴隷であるトロピカレスクの気配を感じないという事実は、単に、そばにいないとか、城の中にいないとか、そういう距離感の程度を意味しない――それは、単に『いない』という意味だ。
 いない以外の意味がない。
 いない以上の意味がない。
 最悪の意味しかない。
 奴隷であり眷属であり。
 そして友達の、トロピカレスク。
 あいつの気配を感じない――どこへ行った。
 何をした。
 俺様は玉座から立ち上がり、駆け出す。
 考える前に動く。
 否、もう考える必要なんてなかった。
 あの元人間の吸血鬼が、どこへ行って、何をしたかなんて、考えるまでもなかった――そして今、どうなってしまったかも。
 考えるまでもなく。
 考えたくもなかった。

原作『業物語』より引用

いないことに驚き、気配がなくてショックを受けている中で、奴隷であり眷属であり、そして”友達”と語ったスーサイドマスター

その関係性を知っているか知っていないかでも、ここまでの一連のシーンで受ける印象は大分変わる気がします

つぎに2つ目は、アセロラ姫の部屋の惨状を目にした時のスーサイドマスターの語りです

 俺様がくれてやった金髪金眼が――お姫様を中心に、放射線状に、木っ端微塵。
 そう形容するしかない。
 俺様でなければ、『これ』が――『これら』が、あのトロピカレスク・ホームアウェイヴ・ドッグストリングスだとは、判別できまい。
 何してんだよ。
 いい男が台無しじゃねえか。
 顔がよかったから、俺様のそばにおいといてやったのに――そばにいてくれたら、それだけでよかったのに。

原作『業物語』より引用

ここに関しては、最後の一言が全てを物語っていますよね

どれほどまでに、スーサイドマスターはトロピカレスクを大事に想っていたのか

この原作の2ヵ所は本当にその部分がよく分かる語りとなっていました

今回のアニメ化のメインは「スーサイドマスターとキスショットの物語」という描き方になってはいましたが、この話は「スーサイドマスターとトロピカレスクの物語」でもあったとここの解説を読んで感じて頂けたらいいですね

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの誕生

食事を始めたスーサイドマスターの姿を凝視するかのように見つめるアセロラ姫

それは興味本位というわけでは決してなく、スーサイドマスターが食することによってトロピカレスクの死が無駄にならないことをしっかりと見届けたいという想いからの行動でした

そして、綺麗に全てを食べ終えたスーサイドマスターは、アセロラ姫に別れの挨拶を告げますが、その直後、アセロラ姫から思わぬ提案をされました

スーサイドマスター。お願いがあります。

わたくしを吸血鬼にしてください。

その提案に正気を疑うスーサイドマスターでしたが、アセロラ姫はいたって正気

彼女は、スーサイドマスターが自身の眷属を食したように、自ら殺した命を自ら食していく生き方を切望していました

それを聞いたスーサイドマスターは、吸血鬼になることの意味を彼女に伝えますが、彼女の意思は固く、決して譲ることはありませんでした

その心意気は受け取ったスーサイドマスターでしたが、それでも無理だと彼女に伝えます

吸血鬼にする為にはアセロラ姫に牙を立てなければならず、その行為は『攻撃』と見なされてしまう

仮にそれがアセロラ姫の同意の上だったとしても、これは彼女の気持ちも、意識も、望みも関係がないため、眷属にする行為自体が行えない

そこまで話したスーサイドマスターでしたが、アセロラ姫はその話を聞いて一つの仮説を思い付きます

それは、自身の意識が関係ないのであれば、周囲の意識が関係してくるのではないかということ

以前、目をえぐろうとしたアセロラ姫を突き飛ばしたことがありましたが、それが出来たのはスーサイドマスターがアセロラ姫を『攻撃』しようとして行われた行為ではなかったため、『攻撃』が『攻撃』と見なされなかった

だからこそ、アセロラ姫を突き飛ばすことが出来たし、スーサイドマスターも『攻撃』の跳ね返りを受けることが無かった

つまり、スーサイドマスターがアセロラ姫のためを思って『攻撃』をするのであれば、それはアセロラ姫に届き、スーサイドマスターがアセロラ姫のために食べようとする行為なら『攻撃』と見なされず、アセロラ姫に届くのではないかと彼女は言います

あくまで仮説にすぎないし、不安要素自体はたくさんあるものの、こればっかりはやってみなければわからない

覚悟を決めたスーサイドマスターとアセロラ姫は互いに向かい合い、それぞれ言葉を交わします

スーサイドマスターは、眷属になっても呼び方は”スーサイドマスター”で構わないということ、奴隷制はトロピカレスクで最後にするということを話します

そして、アセロラ姫は化け物になるのであればスーサイドマスターのようなクールでハードで優しくも美しい吸血鬼になることを話します

そんな言葉を交わし、スーサイドマスターが最後にアセロラ姫の名を呼んだ後、改めて彼女の新たな名前を呼びました

”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード”
貴様の名前だ、キスショット。
貴様のために死んでいく人間を、口づけでもするように食ってやれ。永遠の命を得て長生きすれば、ひょっとしたらそのうち、奇特な王子様に出会えるかもしれんしな。

新たに与えられた名前を噛みしめるように復唱するキスショット

その名に恥じない吸血鬼になることを誓った彼女に、スーサイドマスターは最後のレッスンとして、とても嬉しい時の笑い方を教えます

念願だった極上の血を吸えることがとても嬉しく、そしてそれと同じように、彼女の救いとなれることがとても嬉しいからこそ、今、その笑い方をスーサイドマスターは彼女に教えてあげられるから

「は!「はは!「ははは!「はははは!「あは!「ははははは!「あははは!「はははははは!「あはは!「はははははは!「ははははははは――!」

その笑い声を聞きながら、キスショットは「召し上がれ」と首元を露わにし、スーサイドマスターはその首元へと牙を突き立てます

キスショットの柔肌に牙が通り、吸血鬼へと変貌した彼女と共に空へと飛び立ちながら、スーサイドマスターはこんなことを思いました

何のことはない。殺して食う。殺して愛する。
食うことと愛することは、同じ意味だった。

感想&解説

ついに”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード”となったアセロラ姫

ここに至るまでの描き、スーサイドマスターが名前に込めた想い、アセロラ姫の悲願とその集大成とも言えるシーンでしたが…

原作勢ではあるのでこの展開は知っていましたが、アニメだから出来る見事な描写表現や流れる劇伴、そして作画で見せるスーサイドマスターとキスショットの表情変化など、どれをとっても満足度100パーセントの内容で、最初に見た時は鳥肌が止まりませんでした

それ以降もこのシーンだけ繰り返し見てしまうほどに素晴らしいと感じたここの見せ方は、過去の〈物語〉シリーズを含めても屈指の名シーンとなったのは間違いないと思います

クライマックスの描き方としては本当に素晴らしいものを見せてもらったと心から感謝の言葉を述べたくなるパートでしたね

ここでの解説は原作から1つアニメ描写から1つです

まず原作からですが、スーサイドマスターがトロピカレスクを食べていたシーンについてです

ここのシーンに関しては、実際の食事風景などの描写のみで終わっていますが、原作だとトロピカレスクという眷属であり友達に対して、スーサイドマスターがその死を絶対に無駄にはさせないという想いがとても伝わる語りが描かれています

そもそもの流れを少し解説すると、トロピカレスクはスーサイドマスターの命令を無視してアセロラ姫に『攻撃』を仕掛けた結果、木っ端微塵となっていますが、この結果を招いてしまったこと自体、スーサイドマスターは自らの責任として捉えています

アセロラ姫を『悪ぶる』ように見せかけたものの、結局その行為は全く意味を成しておらず、その『美しさ』によって死んでしまったトロピカレスクはスーサイドマスター自身が殺したようなものであると

そして、自身が殺したのであれば「殺したら食う」というルールに則って食わねばならない

ここはその語りからの、スーサイドマスターの語りになります

 殺したら食う。殺して食う。
 俺様のルールだ。
 力任せに粉々になるという、雑な調理をされたトロピカレスクの肉は、正直に言えば、最高の味わいであるとはとても言い難かったかが、そんなことは関係ない。
 うまいまずいの問題じゃない。
 食う。食う。食う。食う。
 がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ。
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
 ずるずるずるずるずるずるずるずるずるずる。
 ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく。
 噛み砕き、咀嚼し、飲み込んで、消化する。
 骨までしゃぶる、血の一滴も残さねえ。
 空っぽの腹に最初に入れる食材はアセロラ姫だと決めた俺様の決断を、覆してでも食らい尽くす。
 許せとは言わんし、いただきますとも言わん。
 その代わり、無駄死にはさせない。
 貴様の死を無意味にはさせない。
 食物連鎖。
 トロピカレスク・ホームアウェイヴ・ドッグストリングスの生命は、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターの生命へと連鎖するのだ。
 繋がって、連なって、続いていく。

原作『業物語』より引用

スーサイドマスターがキスショットを吸血鬼にした後に「食うことと愛することは同じだった」と語っていますが、スーサイドマスターはしっかりとトロピカレスクに愛情を持っていたんだなと、この語りの部分を読むと伝わってくる気がしますね

次にアニメ描写の解説ですが、これはスーサイドマスターがアセロラ姫を吸血鬼にする時のシーンについてです

最初に言っておくと、この城の屋上のようなところで血を吸うというのはアニメオリジナルになっており、原作にこのシーン自体はあっても、場所の描写は全く描かれていません

そういった中での解説になるため、ここは自分なりの解釈になりますのでご了承を

この吸血シーンで気になった描写と言うのは、スーサイドマスターが立っていた台座の部分

三角形を三つ重ねたような形をしているこの台座は九芒星になっていると思われますが、この九芒星の意味を調べたところ、こんな意味を持っているそうです

九芒星の意味(象徴)

・完全性の象徴
・無償の愛
・慈悲
・完全な完成

調べてこれらを知った時に、この意味や象徴はスーサイドマスターとキスショット関連した事柄が多いと感じました

その関連性というのはこんな感じです

九芒星と二人の関連性

・完全性の象徴=スーサイドマスターという完全な吸血鬼
・無償の愛&慈悲=アセロラ姫の心の『美しさ』
・完全な完成=アセロラ姫がキスショットへと至ること

前述したとおり、あくまで個人的な解釈にはなりますが、それにしても関連性が高い気がします

アニメオリジナルの部分になるので、製作スタッフ側の解釈によって描かれた部分になっていますが、こういう細かなところも作品へのこだわりを感じさせる描写は本当にお見事だと感じさせる部分になりますね

モノローグ

無事にアセロラ姫をキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという吸血鬼にすることに成功したスーサイドマスター

互いに生き延びることに成功し、その後の動向はスーサイドマスター自身も噂程度ながらも聞き及んでいました

鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード

金髪金眼

怪異殺しの怪異の王

予想通りの素晴らしい吸血鬼となったキスショットでしたが、スーサイドマスターが最近仕入れた情報によると、極東の島国で吸血鬼退治の専門家に退治されてしまったらしい

その噂は信憑性の低いガセだと思いながらも、だからといって聞き流せるような噂でもありませんでした

そんな彼女、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターは、キスショットのことを思いながらひとつ思い付いたことがありました

どれ、ここはひとつ、六百年ぶりに、会いに行ってみようかな?
いい女同士、ハードでクールに、積もる童話もあるだろうぜ

2つのワインの入ったグラスの片方を手に取り、再び会えることの喜びを祝うかのように乾杯するスーサイドマスターなのでした

感想&解説

互いに食い食われ、そして救い救われたスーサイドマスターとキスショットの見事なハッピーエンド!

感動的でシリアスな流れからの、この落ち着いた雰囲気のオチは見ていて安心感のあるラストとなっていましたね

そして最後の最後に明かされるスーサイドマスターの性別に驚いた方もいるのでは?(笑)

私自身は原作を読んでいるので知ってはいましたが、初見の方に驚いて欲しくて、この感想ブログでもスーサイドマスターのことは絶対に”彼”とも”彼女”とも言わないようにしていたんですけど、アニメだとちょこちょこ女性姿が映っていたので、もしかしたら早い段階で気付いた方もいるかもしれませんね

そんな”いい女”のスーサイドマスターが六百年ぶりにキスショットに会いに行こうとしているこの展開は、しっかりと『忍物語』に繋がっていきます!

スーサイドマスターがどう関係してくるのかや、『忍物語』とはどういう話になるのかなど期待しながら是非とも続きをお待ちくださいね

ここでの解説は原作から1つです

その1つというのは、キスショットを吸血鬼にしたことによってスーサイドマスターに生じた影響です

今回の「あせろらボナペティ」では、やたら死んでいた印象が多いスーサイドマスターですが、実はキスショットの血を吸ってからは滅多に死ぬことはなくなりました

時代も変わり、食材集めもままならない状況の中でもぴんぴんしているようで、「吸血鬼にしても最年長じゃねーのかな」と語るほどに健康的(吸血鬼で健康的というのも変ですが)に暮らしているそうな

スーサイドマスター曰く、「とんだ長寿料理もあったもんだな」だそうです(笑)

まとめ

『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ貮」の感想&解説でした!

今まで明かされることのなかったキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの誕生秘話

壮絶な過去を持ち、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターという吸血鬼と出会ったからこそ、現在の彼女へと至ったという経緯を知れたことで、改めて〈物語〉シリーズと言う作品に深みが増したような気がします

キスショットが居たから阿良々木暦が吸血鬼となったように、スーサイドマスターが居たからキスショットという吸血鬼が生まれた

「残酷童話 うつくし姫」も含めて、物語の全ての始まりとも言えるこの”原初の物語”を圧巻のクオリティで見せて貰えたことは本当に嬉しかったです

引き続き、満足度の高いこの作品を存分に楽しんでいきたいですね!

それでは今回はこの辺で!

また会いましょう

こちらの記事もおすすめ!