〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン

『業物語』「残酷童話 うつくし姫」感想&解説!〈物語〉シリーズの原初の物語が語られる!

どうもウハルです!

今回は『業物語』の「残酷童話 うつくし姫」の感想&解説をしていきます!

これまで〈物語〉シリーズという作品は『化物語』の時から「つばさキャット 其ノ肆&伍」はネット配信で公開したり、『暦物語』はアプリ限定配信にしたりと、内容のみならず、放送方法ですら数々の挑戦的なことをしてきました

そんな中で、今期のオフ&モンスターシーズンはABEMA限定配信にするという特殊な形態をとっていましたが、今回の『業物語』「残酷童話 うつくし姫」もまた随分挑戦的なことをしてきましたね

放送時間が15分というのは、原作で描かれているこの話自体が短いのでなんとなく分かりますが、まさかアニメーションではなく、切り絵風の演出で全編通すとは思いませんでした

しかも、それが悪いのではなく、むしろキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが人間だった頃の悲惨で無惨で凄惨な過去を語る上で、これ以上ないとも思えるほどの見事な表現力だったので、思わず見入ってしまいました

今回の内容はわずかな時間の放送且つ、作画のあるアニメーションという訳ではありませんでしたが、それでも間違いなく〈物語〉シリーズだと思える内容で本当に良かったと感じた1話となっていました

ということで今回は、そんな挑戦的な内容だった『業物語』「残酷童話 うつくし姫」の感想&解説を語っていきたいと思います!

なお、過去に放送されたアニメ『〈物語〉シリーズオフ&モンスターシーズン』の『愚物語』と『撫物語』も各話感想&解説を書かせてもらっているので、興味がある方は是非そちらも参考にしてみて下さい

また、〈物語〉シリーズのアニメや原作小説についてまとめた記事もありますので、他の〈物語〉シリーズに触れてみたいと感じた方はそちらも参考にしてみて下さいね

『業物語』「残酷童話 うつくし姫」とは?

著:西尾維新, イラスト:VOFAN

昔々、六百年ほど昔にあった本当の話。
今はもうどこにもない国にいた、とてもとても美しい娘の話。

アニメ『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』公式サイトより

こちらの作品はシリーズ通巻20冊目の作品になり、今回の「残酷童話 うつくし姫」を含めて4つの短編が収録された原作小説になります

こちらに収録されている4つの短編というのは「残酷童話 うつくし姫」「あせろらボナペティ」「かれんオウガ」「つばさスリーピング」になります

そして今回放送された「うつくし姫」は最も短いものとなり、全7ページのみの短編作品です

『業物語』「残酷童話 うつくし姫」感想&解説

六百年前にいた美しすぎるお姫様の悲しい童話

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

これからするお話は六百年前ほど前に本当にあった出来事です。だけど作り話だと思って聞いて欲しいものです。なぜって、真実味を持たせるにはあまりに昔のお話ですし、教訓もなければ救いもないこんなお話は、きっと嘘ということにしておいたほうがいいでしょうから。

六百年ほど前、今はもうどこにもその名を残していない国に、『うつくし姫』と国民から呼ばれるほどに美しい女の子がいました

その美しさはどんな家庭にも彼女の肖像画が飾られるほどであり、皇帝陛下からも称号を賜る程です

そんな彼女の類まれなる美貌に魅入られた人々は贈り物をしようと、毎日毎日、彼女に多くのプレゼントをしていきます

音楽家曰く、「ひいさまの美しさを曲にしました。どうぞお納めください」

詩人曰く、「ひいさまの美しさを詩にしました。どうぞお納めください」

芸術家曰く、「ひいさまの美しさを彫像にしました。どうぞお納めください」

しかし、どんな贈り物も”うつくし姫”を笑顔にすることは出来ず、彼女は憂鬱そうにプレゼントを見つめていましたが、その憂いすらも美しかったため、誰も彼女が笑っていないことに気付きませんでした

外見しかみておらず、何をしても「美しい」としか言われない彼女のことを『うつくし姫』とはよく言ったものですが、誰も中身を見てくれていないし、知ろうともしてくれないことに”うつくし姫”は心の底から悩んでいました

こんな美しさは、まるで魔性ではないかと

そんなある時、自身の美しさに甘えず、立派な志に胸を打たれたこの国に古くから住む魔女のおばあさんは、彼女の願いを叶えてあげることにしました

”うつくし姫”の美貌を透明色にし、その代りに心が周りに見えるようにしてあげる

そしておばあさんが杖を振るうと、本当に”うつくし姫”の肌は透き通り、”うつくし姫”は「ありがとうございます」と心から感謝しました

ついに外見の美しさが取り払われた彼女でしたが、しかし、その心の美しさは外見の美しさとは比べ物になりませんでした

その心の美しさの輝きは、お城にいながら国の隅々にまで行き渡るほど

そして、それが彼女にとっての悲劇絶望の始まりでもありました

彼女の父親はずっと見えていなかった娘の心の美しさに己を恥じて、挨拶をした次の瞬間にバルコニーから飛び降りて自らを罰しました

彼女の母親は立派な心持ちの娘を産んだことを誇りに思い、それだけでこの世に生を受けた自分の役割は終わったとばかりに、朝食後に安らかに息を引き取りました

曲を贈った音楽家は”うつくし姫”の優しさを曲ではとても表現できないと思い、それにつり合うものとして、自分の命よりも大切な、楽器を弾くための両手首を斬り落として、彼女に捧げました

詩を贈った詩人は”うつくし姫”の賢さを詩ではとても表現できないと思い、それにつり合うものとして、自分の命よりも大切な、詩を読み上げるための舌を引きちぎって、彼女に捧げました

彫像を贈った彫刻家は”うつくし姫”の勇敢さを彫像ではとても表現できないと思い、それにつり合うものとして、自分の命よりも大切な、素材を見極めるための目をくりぬいて、彼女に捧げました

国民は”うつくし姫”の心の美しさ以上に価値のあるものなどあるかと、自身の家に飾っていた肖像画を火にくべていきますが、誰しもが命より大切なものを持っている訳ではないので、こんなものではまったく釣り合わないと思いつつも、自身の命、親兄弟の命、子供の命、孫の命を捧げました

あっという間にお城の高さを越えるほどにまで築かれた死体の山に”うつくし姫”は絶望し、魔法を解いてもらおうと魔女のおばあさんのところへ行きますが、時すでに遅し

一番最初に”うつくし姫”の内面に触れていたおばあさんは、命よりも大切な、知識の詰まった頭を彼女に捧げていました

おばあさんの生首を前に泣き崩れる”うつくし姫”でしたが、そんな哀れみを誘う姿や他人の為に涙を流す美しい心が、より国民を魅了し、我先にと自分の命や命よりも大切なものを幸せそうに笑顔で捧げていきます

そうしてさらに高く築かれていった死体の山は、悪名として王都や隣国にも響き渡り、軍隊も駆けつけてきますが、彼女の威光を感じると、心が洗われ、自ら望んで死体の山の一部となっていきました

”うつくし姫”はそんな事態を引き起こしていることに絶望し、自らも死を望みますが、彼女の心の強さがそれを許さず、また狂うことすらも出来ませんでした

そんな時に起きた一つの奇跡

”うつくし姫”がこぼした涙が、一時的におばあさんを生き返らせ、生首だけになったおばあさんが彼女に話しかけてきました

おばあさんは”うつくし姫”に旅に出ることを進言し、いつかその心の美しさで誰かを救えるかもしれないと話します

そして、それまでは一人で生き続け、決して一ヵ所に留まり続けてはいけないとも話し、再び息を引き取りました

”うつくし姫”はその言葉に従い、誰も死なせないためのたった一人の逃避行の旅を始めます

そんな彼女が吸血鬼のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードとなるのはもう少し後のお話

そして心清らかな彼女が、己に捧げられたちっぽけな命を救うことが出来たのは、これよりも六百年後の物語になります

感想&解説

〈物語〉シリーズにおいて、時系列的に最初の物語というのは『傷物語』になりますが、あくまでそれは阿良々木くん視点の場合になり、本当の原初の物語としてはこの”うつくし姫”の話と言えます

まだキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードになっておらず、彼女が人間であり、その美しさが人を殺すことになった理由のお話

その美しさはあまりに残酷ですし、自らの命やそれ以上の物を捧げている者達は幸せそうですが、傍から見れば誰も幸せになっていないように感じるこの童話は、本当に救いのない話だなと思いました

そんな救いのない話ではありましたが、それをこの切り絵風の演出で放送しようと考えたシャフトは本当に凄い

正直、かなり挑戦的なことをしてきたなと感じていましたが、見終わった時にはこれが正解だったなと納得してしまうだけのものを見せてくれたので、毎話感じていることではありますが、スタッフの方々には拍手を送りたくなりましたね

そして、今回の話に関しては解説という解説は特にありません

なぜなら、ほとんど原作通りに描いているから(笑)

なので、ここでは今回の「残酷童話 うつくし姫」を見た後に視聴するとより理解度や深みが増すような〈物語〉シリーズのエピソードを2つ紹介したいと思います

まず1つ目が、『続・終物語』の「こよみリバース 其ノ肆」です

今回のお話では、”うつくし姫”のあまりの心の美しさに自らの命やそれ以上に大切なものを捧げるという描写が童話として語られていましたが、この自責の念を感じて命を捧げようとしている描写が実際に描かれているのがこの「こよみリバース 其ノ肆」になります

全てが反転してしまったような世界に迷い込んでしまった阿良々木くんが、その世界で出会った忍野忍の姿こそが今回の”うつくし姫”の姿になるんですが、彼女を前にした時の阿良々木くんは彼女と会話をしていくうちに、油断したら自らの首を掻っ切りそうなくらいの罪悪感に苛まれていきます

そして、どんなことすらも無礼に感じてしまい、死ぬこと自体が正しいことだという異常な考えにまで発展してしまうんですが、この心情こそがまさに”うつくし姫”が持つ魔性の美しさなんですよね

この時の阿良々木くんはカーテン越しに彼女の姿を見ているだけだったのでまだマシだったみたいですが、この時に余接が言っていた、「直接見たらその場で自分の腸を引きずり出すよ」という言葉が、今回の話を見た後だと冗談でもなんでもなかったというのが非常によく分かると思いますよ

次に2つ目ですが、『囮物語』の「なでこメデューサ 其ノ貮」です

今回の話で、”うつくし姫”は何をやっても美しいという感想しか抱かれず、さらにはその美しさで多くの人が死んでいきましたが、これと似通った性質を持っていたのが千石撫子です

彼女の場合、生まれ持ったその可愛さから、黙っているだけで周囲が親切にしてくれたり、賢く思われたり、嘘をついてもゆるされたり、困っていると勝手に助けてくれたりすることがありました

しかし、当の千石自身はそれ自体が非常に嫌であり、結果的に周囲から言われるようになったのが「可愛いだけ」という言葉でした

千石自身はそう言われることが凄く嫌で、もっと他の部分を見て欲しいと感じていましたが、その考え方は”うつくし姫”が魔法をかけられる前に思っていた事と似通っていますね

そんな中でポイントなのが、見た目ではなく、中身を見て欲しいと過去に思っていた忍自身が千石に対して「よかったの。たまたま可愛くて」と言ったということ

これだけ凄惨な過去を持っていたにもかかわらず、千石に対して見た目の部分を皮肉を込めて言うことの重たさが異常値を叩き出しているような気がします

もしかしたら忍自身は過去のことは気にしていないし、なんなら忘れている可能性すらもありますが、それでもこの言葉は重いですよね

一応、前回の『撫物語』の「なでこドロー 其ノ伍」の後日談で「なでこメデューサ」での一件は良い所に落ち着きましたが、それがなかったら今回の話も「なでこメデューサ」での一件も重た過ぎて押し潰されそうになります

そういった意味では、少し軽さを増してはいますが、それでもこの”うつくし姫”の過去がある状態で、あの言葉を言っていると考えながら見ると、「これ以上ない皮肉かもしれない」というような色々な怖さも感じることが出来るので、あのシーンの深みと恐怖感が増すと思いますよ

そしてここからは本編に関係のない戯言みたいな部分ですが、実はこの”うつくし姫”は過去にブルーレイ&DVDの特典である副音声のキャラクターコメンタリーに登場したことがあります

彼女が登場したのは、それこそ自身が登場していた『続・終物語』の「こよみリバース 其ノ肆」で、コメンタリー相手は斧乃木余接です

この時の余接は表情豊かな方ではなく、いつもの無表情キャラの方で登場してきたんですが、その余接をイラつかせるほどに彼女は結構凄かったんですよねw

自身の紹介を「鉄血でなく熱血でなく冷血でない非吸血鬼。怪異の王ではありません」と否定文から始めたかと思いきや余接の「いえーい。ピースピース」の紹介の仕方を嗜める始末

さらには、『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』も物騒だという理由から「アンリミらないルールブック」と言い出したり、斧乃木余接(おののきよつぎ)の名前も「おののかないよつがない」と、とにかく余接のキャラクター性や長所を潰しにかかってきたんですよね

そしてこれの質が悪いところが、本人は至って真面目だということ(笑)

あくまで余接の為を思っての発言であり、だからこその”うつくし姫”でもあるんですが、こんな所でもその美しさを披露する感じは副音声らしい気もします

ただ、彼女は「長い話の時はチャプタースキップをする」という自由さも持ち合わせているので、そういったところは人間味もありながら、お姫様らしい感じもします

ちなみに、長い話の部分は見ていないので、この『続・終物語』のオチの部分は知らないですし、なんなら自身がしゃべっているシーンですら長くて早送りしながら見たらしいですよw

あと、この”うつくし姫”のキャラクター性は副音声でしか見たことないですし、原作勢として言うなら、これから登場するであろう「あせろらボナペティ」でもこんな面白いキャラではないので悪しからず(笑)

それでも興味が湧いた人は『続・終物語』の円盤を購入してみてもいいかもしれませんね

出演:神谷浩史, 出演:斎藤千和, 出演:加藤英美里, 出演:沢城みゆき, 出演:花澤香菜, 出演:堀江由衣, 監督:新房昭之

まとめ

『業物語』の「残酷童話 うつくし姫」の感想&解説でした!

今回のお話は特別編という15分放送の形が取られた内容になりましたが、これを見た時に思ったのが、今回のシリーズは確かに地上波の枠では放送できなかったんだろうなということ

オフ&モンスターシーズンの第一話である『愚物語』「つきひアンドゥ」に関しても30分ではなく40分の放送形態が取られたり、今回の放送も15分という形を取ったりと、それぞれのエピソードを丁寧に描き、且つ、〈物語〉シリーズの面白さを十分に伝えるためには地上波という一つの”枠”に囚われた放送方法では難しかったのかもしれませんね

正直な話をすると、今回のアニメが始まる前は「なんで地上波でやらないんだろう?」とずっと感じていましたが、今回の話を見て改めてABEMA限定配信にした意味に納得しました

もしかしたら実際問題は他に別の理由があったかもしれませんが、それでもスタッフの方達は出来る限りの最善と最良を尽くしてこの作品を描いていることは間違いないと感じているので、そういった意味では改めて制作陣の方々の作品に対するリスペクトを感じつつ、私自身もスタッフの方達へのリスペクトを再認識した話になった気がします

そして、ここからはじまるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのお話も存分に楽しませてくれると確信しつつ、今後も楽しんでいきたいなと感じましたね

そんな次回は『業物語』「あせろらボナペティ 其ノ壹」になります

餓死から目覚めたスーサイドマスターは、自身の眷属であるトロピカレスクから、死んだ原因が『うつくし姫』だと知らされる。彼女の童話を聞き興味をそそられたスーサイドマスターは、トロピカレスクの忠告をよそに、『うつくし姫』を目覚めの一食にする、と彼女を探しに出かけていく。

〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

それでは今回はこの辺で!

また会いましょう

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