〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン

『撫物語』「なでこドロー 其ノ伍」感想&解説!”神撫子”との対決!そして感動のフィナーレへ!

どうもウハルです!

今回は〈物語〉シリーズのオフ&モンスターシーズン『撫物語』の最終話「なでこドロー 其ノ伍」の感想&解説を語っていきたいと思います!

原作勢であり、この『撫物語』はオフシーズンの中では一番好きな私が、今回の「なでこドロー 其ノ伍」を見て感じた事を最初に言うのであれば…

”神撫子”との対決シーンで見せてくれた作画力もそうですが、なにより、撫子と”おと撫子”の会話のシーンは本当に良かった!

原作の良さを活かすだけでなく、文字では描かれていなかった行間を描きつつ、アニメだからこその表現にて非常に感動させて頂きました

もともと原作勢ではあるので、今回の話は感動的な内容になるとは思っていたんですが、その期待以上のものを見せてくれたことに、一人の〈物語〉シリーズファンとして感謝の気持ちでいっぱいになりました

それほどまでに今回の「なでこドロー 其ノ伍」は素晴らしく、個人的には”神回”と言ってもいい内容となっていましたね

ということで今回は、そんな”神回”の『撫物語』「なでこドロー 其ノ伍」の感想と解説を語っていきたいと思います!

なお、前回の〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズンの『撫物語』「なでこドロー 其ノ肆」の感想&解説も語っていますのでよろしければそちらも是非!

また、〈物語〉シリーズのアニメや原作小説についてまとめた記事もありますので、他の〈物語〉シリーズに触れてみたいと感じた方はそちらも参考にしてみて下さいね

『撫物語』今回はどこまでアニメ化した?

著:西尾維新, イラスト:VOFAN

”夢を追ってひたむきに努力とか、そんな恥ずかしいことしないでよ、恥ずかしい”
かつて神様だった少女・千石撫子。夢を追い、現実に追いつめられる彼女は式神童女・斧乃木余接の力を借りて、分身をつくることに成功する。しかし4人の「撫子」達は、ばらばらに逃げ出してしまい・・・?
自分さえ、手に負えない・・・・・・のが青春だ。

『撫物語』巻末より引用

『撫物語』は全31章で構成されているシリーズ作品になりますが、その内、「なでこドロー 其ノ肆」は27章から31章までの内容を軸とした話になっています

『撫物語』「なでこドロー 其ノ伍」感想&解説

vs神撫子!そして物語は最終局面へ

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

”今撫子”vs”神撫子”、最終決戦、開幕

圧倒的な力を誇る”神撫子”を前に、ついに戦いを挑む”今撫子”

対する”神撫子”ですが、彼女は目の前の光景に首を傾げます

なぜなら、目の前に二人の”今撫子”の姿があったからです

そんな疑問をよそに、二人の”今撫子”は”神撫子”の元へと勢いよく近づいてきますが、”神撫子”は動じるどころか落ち着いた感じで「いいや、めんどくさい」とつぶやき、そのまま両方とも殺す選択を取ります

そして、”神撫子”は蛇で作った二本の槍を取り出し投擲

一本は一体の”今撫子”刺さり、式神だったと分かるかのように紙吹雪となって舞い散りました

続けてもう一本の槍も残り一体の”今撫子”に向けて投擲しますが、その”今撫子”はその槍を弾き飛ばします

手にしていた槍を使い切った”神撫子”は、新たに槍を一本作り出し、今度はそのまま”今撫子”に向けて特攻を仕掛けてきます

”今撫子”は”神撫子”の攻撃を防ぐように槍を抑えますが力及ばず

槍は見事に腹を貫き、”今撫子”はその場に倒れてしまいますが、その”今撫子”も紙吹雪のように舞い散りました

まさかの事態に驚く”神撫子”でしたが、後ろから上半身裸のブルマ姿をした本物の”今撫子”が姿を現します

そ。どっちもブラフだよ。嚙み砕いて言えばね。

前に気を取られていた”神撫子”は完全に不意を突かれた形になり、そのまま紙の中へと封じられました

無事に”神撫子”との戦いに決着を付けた”今撫子”ですが、彼女が”神撫子”に対してとった戦略としてはこうでした

  1. ”神撫子”が100人の”ルマ撫子”を『撫子の壁』として利用するのであれば、”今撫子”の姿が同じになれば、その中に混ざっても問題無いと考えた(ブルマと体育館シューズは絵に描いて立体化)
  2. ただ、近づくにしても”神撫子”の気を引くもう一つの作戦が必要であり、その策として”逆撫子”には”今撫子”の姿になってもらい、さらにもう一体の”今撫子”を”逆撫子”に作り出してもらって、式神の二体同時起動をする
  3. その後、余接に『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』によって作ってもらった道を使って併走しながら”神撫子”に特攻をかけてもらい、その隙に本体の”今撫子”は”神撫子”に近づき封印する

”神撫子”を封印するという結果に関しては成功したものの、二体の式神を犠牲にしてしまったという結果もまた事実ではあり、”今撫子”にとってそれは失敗したとも言える結果でした

”神撫子”同様に、自身が作り出した式神を囮として使った形になったと思っていた撫子でしたが、余接自身は「明確に違うと思うけどね」と言います

違うと言うより、変わったと言うべきなのかもしれないけれど。
一番リスクを冒したのはお前だ。それは間違いない。みんな作り物の式神だって言うのに、生身で生きているお前が一番、危険な真似をした……、それだけで十分、僕はお前を評価するよ

安全圏にいた”神撫子”からは変わり果てた。
もうあの頃のお前じゃないんだ。

撫子にとって非常に嬉しい言葉を投げかけてくれた余接でしたが、続けて「早くここから離れたほうがいい」と言います

『人見知りゆえの人払い』が解除されたことで人が集まってくる可能性があるというのもありますが、それ以上に撫子には他に行かなきゃいけない場所がありました

余接もそのことには気づいており、「呼ばれてるほうへ行ってやれ」と撫子を送り出します

”神撫子”を封印したものの、実はまだ終わっていない撫子は”ある場所”へと向かうために動き出しました

感想&解説

ここの戦闘シーンの作画の良さに圧倒されながらも、”今撫子”に扮した”逆撫子”が槍を吹き飛ばすシーンとかカッコ良過ぎて最高でしたね!

そしてそこから”神撫子”の封印という流れになるんですが、ここで余接が言っていた「お前は変わった」というところは心にきましたね

これまでの式神調伏では本心と向き合ったことで後悔を感じていた中、一番命の危険がある最強の式神で変化を感じることが出来たという展開は、見せ方としては非常に上手かったように感じます

逃げずに一番のリスクを冒して目の前の問題に立ち向かった撫子は、間違いなく成長しているんだなと実感できましたね

そして、ボスキャラを倒したものの、まだ終わらないこの物語

言うなれば”真のラスボス”とも”真の黒幕”とも言えるような展開になっていますが、ここまでで大きく成長した撫子が見せた残る一体の式神の封印は見所抜群の内容になっていましたね

ここでの解説はアニメと原作の違いを1つ説明を1つしていきます

まず、アニメと原作の違いですが、それは”神撫子”との戦闘シーンです

原作でもこの戦い自体はありますが、ただアニメほど激しい戦闘として描かれてはおらず、本当に僅かな文字数で語れるくらいの内容になっています

「一匹。二匹」
 と、左右の毒牙を振るいました。
 投げやりに、投げました。
 まるで『無邪気で可愛かったらそれでいいでしょ?』と言わんばかりにあっけなく、投擲されたその切っ先は、やはりあっけなく、二人の千石撫子を貫きました。

原作『撫物語』より引用

この後はアニメ同様に式神の二体が紙吹雪となって散る展開になっているので、戦闘シーンとしての描写だと本当にこれだけです

アニメでは描きの違いというのも当然ありますが、そこからの行間の描きというのがこの戦闘シーンでは抜群に凄かったというのがこれを読むとわかるかと思います

つぎに説明ですが、これは”神撫子”に対してとった、式神の二体同時起動についてです

この部分に関しては、アニメでも描写として見れば汲み取ること自体は出来ますし、本編の語りの方でも少し書きはしましたが、一応ここでも解説として説明しておきます

そもそも、この式神の二体同時起動は余接から禁止されていたにもかかわらず、撫子は実行に移していますが、厳密にいえば撫子自身は二体同時起動をしておらず、構図としては今撫子逆撫子を、”逆撫子新たな今撫子式神を起動したになります

この発想自体は”神撫子”が100人の”ルマ撫子”の式神を作り出したことから得ており、式神が式神を使役すること自体は可能だと考えた訳ですね

そして、実際にその式神の式神の立体化には成功しましたが、実は問題があって、これも100人の”ルマ撫子”たち同様に単純な命令しか受け付けないNPCのような状態となっていました

では、そのNPCのような式神に何を命令するかと言えば、それが「走る」という動作

余接に道を作ってもらったのは、単純な動作しか出来ない式神と”逆撫子”が一緒に”神撫子”に向かって走ってもらえるようにするためというのがあった訳ですね

おと撫子の行方

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

”ある場所”へと向かうために着替えた撫子は、本屋を出たところでフォルクスワーゲンに乗った忍野扇と出会います

運転席から降りてきた扇は車に撫子を乗せ、乗車した撫子が行先を言おうとしたところ、「大丈夫、心得ているとも」と場所も聞かずに走り出しました

そしてその道中、撫子は”おと撫子”について話を始めます

”おと撫子”時代の撫子は、かつて忍野メメからも言われたように『被害者』の立場にいた女の子でした

実際、今の撫子自身もそう思っていましたが、それ以外にも『被害者』でいること自体が楽ではあったことも事実でした

好かれるのも、恨まれるのも、嫌われるのも全て受動態として身に受け、何もしてこなかった

ちゃんと話せば、最悪の事態は止められたかもしれないのに

それをしなかったのは自分可愛さに自分を甘やかしたことが大きく、『被害者』として居続けることで周囲を加害者にもしてきました

そしてその考えは今の”おと撫子”にも当てはまり、彼女は自分が『被害者』で居続けることで周囲から一番弱いと認識させ、さらには自分が『被害者』だと思っているからこそ、周囲を利用することに罪悪感を感じることなく”他の撫子”たちを利用することも出来たと撫子は扇に話しました

それを聞いた扇は意外な犯人に驚きつつ、だとしても”おと撫子”の目的が分からないと撫子に言います

撫子はその質問に対して、”おと撫子”がしたかったのは本当にしたいことをする為の時間稼ぎだと話しますが、質問をしてきた扇がそれを知っていることは撫子にも分かっていました

それを素直にそのまま話すと、扇も否定はせず、「それが誉められたことだとは思わないけど」と返しました

撫子自身もそれには同意であり、さらに「”おと撫子”を止めなければ物語は終わらない」とも話しているところ、扇が車を止め「着いたよ」と車を止めました

扇が撫子を連れて車でやってきた場所は、戦場ヶ原ひたぎが住む民倉荘の前

扇が言う撫子のやり残したこととは「恋敵である戦場ヶ原をぶっ殺すこと」であり、扇はその為に民倉荘まで車を走らせてきたようでした

撫子は民倉荘を前にし、全力で微笑みながらも、同じく全力で扇の襟元を掴んで叫びました

ぜんぜんちげーよ、ああん!そんな察しの悪さで、なぜしたり顔で颯爽と登場しやがった!?今すぐ、直江津高校に迎え!直江津高校の正門前だ!

感想&解説

この”おと撫子”の行動に関してはすでに薄々気付いていた人もいたかもしれませんね

これまで張られてきた伏線の数々を思い起こせば納得する部分ではありますし、さらに言えば過去の撫子を考えればこの行動に信憑性もあります

なので”意外な犯人”と言われると、驚きとしては薄い気もしなくはないですが、ここまでの描きで美味いなと思うのが、撫子だけじゃなく、見ている視聴者にも”おと撫子”を一段低く見させる描きをしてきたところですね

「多くの物を奪われるような気の弱い『被害者』の女の子」という認識を持って見てしまうからこそ、思考を曇らせ、実は他の撫子たちを利用していたという答えに辿り着きにくいようにしている

この辺の描きは以前も少し言いましたが、ミステリーを書かれている西尾維新先生らしい伏線の描きであり、ミスリードの仕方だったかなと感じています

そして、そんな中での扇のオチは最高でしたねw

まさかの答えを大ハズシするという展開を見せながらも、この時の顔のニヤケ具合を考えても、わざとやったんだなと思えるキャラクター性がまた凄く良かったですし、”逆撫子”ではない本物の撫子によるキレ芸もまたオチとしては最高に笑えて、この話の好きなシーンの一つになりました

ここでの解説は原作を絡めた伏線の説明をしていきます

ここでのパートにて”おと撫子”のこれまでの行動が語られ、全ての伏線が回収されましたが、実は原作だともう少し詳しくその内容が語られています

まず”逆撫子”の時に張られていた伏線ですが、彼女の場合は彫刻刀阿良々木くんの部屋で待つという知恵の部分が伏線になっていました

彫刻刀に関してはアニメでは語られていませんでしたが、そもそも”逆撫子”が”神撫子”戦の時に撫子に従った理由は、”おと撫子”から彫刻刀を貸してもらった恩があるからだと原作では話しています

 本屋さんの二階で、神撫子と決着をつけるにあたり、協力が不可欠だった逆撫子を、階段の踊り場で顕現させたときに、逆撫子はあの荒っぽい口調で、こう言ったのです。
「いいぜ、協力してやる。許さねえぜ、俺様に彫刻刀を貸してくれたおと撫子を、あんな風に晒し者みてーに使う神撫子がよ――ああん?」
 ……怒り自体は、私と共有できるものです。
 でも、どこかひっかかる台詞でした。
 彫刻刀を貸してくれた

原作『撫物語』より引用

これに疑問を感じた撫子は、そこから「部屋で待つという知恵も借りたのでは?」と考えます

実際にその知恵の部分の真偽は明かされてはいませんが、”逆撫子”が持つ知性の部分を考えると、きっと間違いはないんでしょうね

つぎに”媚び撫子”の時に張られていた伏線ですが、これは”媚び撫子”が着ていた制服撫子を本棚から助けた時のセリフになります

”逆撫子”が彫刻刀を借りたというのが分かり、同じ発想で”媚び撫子”も制服を奪ったのではなく”おと撫子”から交換を申し出られていたのではないかと撫子は考えました

その場合、平日の昼に制服姿で動き回るという明らかに目立つ格好を”媚び撫子”は押し付けられ、さらに言えば、”媚び撫子”はその姿で一番目立たない学校に行くしかない状況になっていたとも考えられます

実際、昼間に制服姿でうろついていた”媚び撫子”が最初に見つかっています

さらに、それを裏付けるかのようなセリフが撫子を助ける時に言っていた「むかついたからじゃない?」というセリフです

本棚を支えながら言ったこのセリフですが、その時は撫子自身がその言葉を言われていると感じていました

しかし、実はこのセリフは囮役だった”クール撫子”こと”おと撫子”に対して言ったことであり、また、自分こそ囮として使われていたことに気付いた”媚び撫子”が、そのせめてもの抵抗として撫子を助けたと考えると色々辻褄も合います

そもそも、「むかついたから助ける」っておかしな話ではありますよね

最後に”神撫子”の時に張られた伏線ですが、彼女の場合はこれまでの行動自体が伏線だったと言っていいかもしれません

というのも、もともと”神撫子”だった時の撫子は知性があるタイプではありませんでしたが、それでも今回の式神バージョンの”神撫子”ほど支離滅裂な状態にはなっておらず、明らかに今回の”神撫子”は以前の時よりも知性が低下している状態でした

そんな中で、”おと撫子”を囮代わりとして使うという発想が出来るとも思えず、さらに言えば、したいことも何もない中でこれだけの振る舞いをしてみせている彼女は、”おと撫子”に言われるがままに行動していたというのが真相だったという訳ですね

”逆撫子”、”媚び撫子”、”神撫子”のそれぞれに張られた伏線を見た状態で、改めて考えてみると「確かに不自然だったな」と感じる部分も多く、それが全て”おと撫子”が仕掛けたものだと考えると納得のいく部分も多くあるように感じます

また、この伏線を知った状態で『撫物語』を見直したりすると、1回目とは違った視点で見ることもできると思うので、時間のある時に見直すことをオススメしたいですね

新たな物語に進む時

もうすぐ下校時間になりそうな時間に直江津高校の正門前にいた”おと撫子”は、ソワソワしながら、そして楽しそうに誰かを待っているようでした

そんな”おと撫子”に撫子は「無駄だよ」と声を掛けます

その声に驚く”おと撫子”でしたが、撫子は気にすることなく話を続け、すでに”あの人”は卒業しており、この場所に居続けることは無意味だということを伝えます

しかし、”おと撫子”は撫子のそんな語り掛けに対して「ごめんなさい」と脈絡なく突然謝り出し、明らかにこの話題を閉じる為に謝っただけだと分かった撫子は、苛立ちを覚えつつも、それでも決して向き合うことを辞めませんでした

”おと撫子”が待ち続けるのではなく、自ら動き出してくれるように話をし続けると決めているから

すると”おと撫子”はぽろぽろと涙を流し始め、「じゃあ、もう、好きじゃないの?」と撫子に対して質問してきます

こんなに好きなのに。待ってるだけで楽しいのに。思ってるだけで幸せなのに。他に何もいらないのに。なのに、もう、好きじゃないの?もう、思い出せないの?飽きたの?忘れちゃったの?どうでもよくなっちゃったの?なくなっちゃったの?そんなつまらない未来なの?撫子は、そんな大人になっちゃったの?

あまりに素朴過ぎる質問に驚く撫子でしたが、それでも自分の想いを、自分自身の言葉でしっかりと”おと撫子”に伝えるため、”おと撫子”を強く抱き締めながら、一つの約束をします

約束する。
また私は、誰かのことを好きになるって、約束する。人を好きになることを、私はやめない。待ってるだけで楽しくて、思うだけで幸せだったことを、私は忘れない。あなたの失恋を、絶対に失敗にはしない。夢を追うけど、懲りもせずに、恋もする。他に何もいらなかった気持ちを、思い出す。きっと、あなたがなりたい私になるから。がっかりされない私でいるから。だから、もう待つのはやめて――行こう、未来へ

その言葉に頷く”おと撫子”は撫子の元へと駆け寄り、紙の中へと戻りました

”おと撫子”の辛さも、痛みも、可愛らしい失恋も、全部、面白い漫画にし、ときめく物語にしてあげると心に誓った15歳の千石撫子

発展途上で、成長中で迷走中

未熟なばかりの半人前

そんな彼女はまだ大人にはなれそうにないと感じながらも、それでもこの日、ほんの少しだけお姉さんになれたと感じながら帰路へとつきました

感想&解説

実際に泣きそうという意味でも感動ではありますが、さらに言うなら、このシーンをこれだけ素晴らしい作画と表現力で描いてくれた制作スタッフさんや、撫子自身の想いをその演技力でしっかりと表現してくれた花澤香菜さんに感謝したいという気持ちも含めて本当にここは感動しました

原作でもこれがあるから、前の感想とかでも”神回”という言葉を使いましたが、個人的には本当に今回は見事な”神回”だと思える感動を与えてもらいました

特に”おと撫子”が消えていく描写なんかは原作では描かれていなかったですし、なにより前髪をかき分ける描写は完全にアニメオリジナル!

その描写があることで、”おと撫子”がしっかりと前を見て、未来を進んで行くことを決めたと表現しているように感じることが出来て、より一層感動するシーンへと昇華しているように感じました

本当にこのシャフトの制作陣の方々の〈物語〉シリーズにおける解釈の深さとそれを表現するための一つ一つのこだわりには感服させられましたね

そして、撫子自身がお姉さんになったと感じた描写は、この”4人の撫子”を追いかける物語の一つの締めとしては最高の終わり方ではないのかなとも感じたパートでしたね

ここでの解説は原作から1つです

ここの”おと撫子”とのシーンに関してはアニメならではの表現がされており、非常に感動的に描かれていましたが、原作も負けず劣らずの感動的な描き方をしていました

その描き方というのはある意味で、「今の千石撫子を作り上げている全てでぶつかった」とも言えるような描きとなっているんですよね

原作では、しっかりと撫子自身の言葉で想いを伝えるというために「月火や貝木だったらこうしていた」という語りを入れていたり、すでに一緒に居る”撫子たち”のように想いを伝えようとしたり、年上のお姉さんである老倉に公園でしてもらったことをしてあげたというのが分かるようになっていて、それがあるからこそ、”おと撫子”との和解の一連の流れが非常に感動できるようになっています

これに関しては撫子自身の心情にもなっていきますが、そういったことも考えた上で、”おと撫子”に対して正面から向き合っていたと知ると、よりあのシーンも感動できると思いますのでここで紹介しておきます

そして、その紹介の為にそれぞれを原作から引用させて頂きますが、今回は少し長めの引用になりますので予めご了承を

まず、「月火や貝木だったらこうしていた」という部分です

これは”おと撫子”が「もう好きじゃないの?」と泣きじゃくった後の撫子の語りです

「そんなつまらない未来なの?撫子は、そんな大人になっちゃったの?」
「…………」
 そんなのは幼稚に、恋に恋をしているだけだと言い放つこともできたでしょう。人見知りで世間を知らないから、身近な人に憧れてしまっただけだと教えることもできたでしょう。大きくなったらお父さんと結婚すると言っていたのと大差なくて、再会してことは運命じゃなくて、近所に住んでれば普通に起こり得ることだと、説明することもできたでしょう。
 月火ちゃんならそうします。
 そうしてくれました。
 恋や愛なんてすべてじゃない、他のことはどうでもいいと言うけれど、人生には惚れた腫れたの話以外にも、素晴らしいものがたくさんあるよと、言いくるめることもできたでしょう。幸せになることは人生の目標じゃないんだと、たぶらかすこともできたでしょう。生きてればそのうちいいことはあると、騙すこともできたでしょう。
 貝木さんならそうします。
 そうしてくれました。

原作『撫物語』より引用

これはそれぞれ撫子自身が、月火や貝木に言われたことですね

この二人の言い分もどちらも間違いではないですし、撫子自身もその言葉に影響されて様々な変化を齎されてきましたが、それでもその言葉はあくまで二人だからこその言葉であり、撫子の言葉ではありません

だからこそ撫子はこの時、原作でこう語ってもいます

 だけど。
 私は、そうしません。
 それらは結局、私の言葉じゃないんですから。

原作『撫物語』より引用

ここの描写に関しては、自身の代理とも言える式神であり、待ち続けている”おと撫子”に対してはしっかりと自分自身の言葉で想いを伝えようという強い気持ちが分かる描写となっていました

次に、ほかの”撫子たち”のように話そうと語る部分です

これは上記した「それらは結局、私の言葉じゃないんですから」の続きになります

 だから私にできることと言えば、逆撫子のように感情的に、神撫子のようにわけのわからないことを、媚び撫子のように約束することだけです。

原作『撫物語』より引用

それぞれが逃げ出した”撫子たち”ではありますが、それはどれも今の自分と繋がっており、そしてここまでで皆と向き合ったからこそ、改めて”自分”というもの見つめ直すことが出来た

また、見方を変えれば、それぞれの式神たちのように想いを伝えることは、”おと撫子”を待っている彼女たちの言葉や想いも乗せて気持ちを伝えてようとしているとも取れます

そういった想いを乗せて言った撫子の言葉は、本当に多くの感情や想いが乗せられていたんだと分かりますよね

ちなみに、ここのシーンはアニメでは語り無しの描写だけでしたが、ここの原作部分の表現はしっかりされていました

”逆撫子”の感情的にというのは強く抱きしめてあげることであり、”媚び撫子”のように約束することは最初にしていますね

”神撫子”のわけがわからないことに関しては、抱き締めながら言った言葉の数々ですが、これは原作の方がより伝わりやすいかもしれません

 また私は、誰かのことを好きになるって、約束する。人を好きになることを、私はやめない。待ってるだけで楽しくて、思うだけで幸せだったことを、私は忘れない。あなたの失恋を、絶対に失敗にはしない。夢を追うけど、懲りもせずに、恋もする。他に何もいらなかった気持ちを、思い出す。あの人よりも優しくて、あの人よりも格好よくて、あの人よりも素敵で、あの人よりも天然で、あの人よりもいい人で、あの人よりも好きにならずにいられない、ロリコンじゃない人に恋をする。努力に逃げずに、人から隠れずに、きっと、あなたがなりたい私になるから。がっかりされない私でいるから。だから、もう待つのはやめて――行こう、未来へ

原作『撫物語』より引用

一番心の整理がついていないような、わけのわからなさがある”あの人”のクダリはカットされてましたが、この好きだった人よりも好きな人を必ず見つけると約束する撫子の言葉の数々は、やはり撫子らしい言葉だなとも感じましたね

最後に、老倉に公園でしてもらったことです

ここでいう「してもらったこと」というのは、頭を撫でてもらったことです

「なでこドロー 其ノ貮」にて、撫子は公園で老倉と出会い、将来に不安を感じていた撫子に対して「安心しなさい」と言いながら頭を撫でてあげた老倉でしたが、撫子自身、この行為を嬉しく感じつつも、心地いいとも感じていました

その時感じた想いを”おと撫子”にも与えたのと同じく、「安心してほしい」という想いも乗せているかのようなこの仕草は非常に心にきました

ここもアニメでは語りは無かったですが、しっかりと”おと撫子”の去り際に、撫子は頭を撫でてあげているのでそこにも注目しながら見て欲しいですね

後日談であり前日譚

画像出典:〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン公式サイトより

すべてが解決した後、撫子の部屋に月火がやってきて、阿良々木家で撫子がした様々な事を庇っといたと報告にやってきました

厳密にいえば、全く庇いきれてない言い訳をしてくれたみたいですが、その報告の後、すぐさま撫子のベッドで寝てしまう自由っぷりを見せる月火を眺めていた撫子

すると、月火の影から「そう蔑んだ目で見てやるな」と声がし、それと同時に金髪の幼女・忍野忍が現れ、撫子は驚きます

彼女曰く、血液系の怪異であるがゆえに、血縁関係の者であれば”影渡り”は可能なのだとのこと

ただし、かなり無理筋な方法であるのは間違いないため、影の持ち主の疲労も相当なものになるらしく、それ故に、月火は部屋に来てすぐに寝てしまったようでした

そんな話を聞きつつも、過去の出来事を考えると冷や汗ものの対面となっていた撫子でしたが、忍は特に意に介すこともなく、それどころか手土産としてドーナツを持ってきてくれたようでした

そして、どこから聞きつけたのか、忍は撫子の”絵を立体化する能力”を使ってドーナツを描くよう言います

撫子はその言葉に従うようにドーナツを描き、見事に立体化には成功させましたが、味の方は大失敗に終わります

しかし、忍は怒ることはなく、むしろ「やはり食べ物は無理か」と納得するようなことを言った後、「次は精密機械で実験してみようか」と話します

ここで撫子もようやく忍の意図を理解し、彼女は撫子の”絵を立体化する能力”のレクチャーをしに来たんだと察しました

その後も数々の実験を試み、この特殊技能のレクチャーを一通り終え、忍が月火の影に戻ろうとしたところで、撫子は心の中に残っていたものを忍にぶつけてみました

私のこと、たまたま可愛いだけって、今でも思う?

決死の覚悟で聞いた質問でしたが、忍は「きょとん?」と首を傾げ、「心無いことを言う奴がいるもんじゃの」と、とぼけているのか本気なのかよく分からない返答をしてきました

そして忍は続けて高らかに笑いつつ、撫子に向けてこう言います

今度そんな阿呆なことを言う愚か者がおったら、儂のところに連れてこい。儂がきっちり保証してやろう。六百年生きた怪異の王であり、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼と呼ばれたこの儂を、数千回にわたって殺してのけ、しかもそんな神の座を自ら降り、絶大な力を捨てて人間に戻るという決断をしてのけ、今もそうして立派に生きておるうぬが、たまたま可愛い奴なわけがないじゃろう――可愛さ余って憎さ百倍じゃよ

その言葉に拍子抜けしつつ、今度こそ影に戻る忍を撫子は見送りました

その後、夕方まで寝て夕飯まで食べて帰った月火と入れ替わるように余接がやってきて、「いい話を持ってきた」と撫子に話します

その「いい話」というのは、臥煙伊豆湖が撫子に興味を示し、仕事を手伝ってほしいと言っているということ

それを聞いた撫子はあたふたしますが、余接が言うには、臥煙は撫子の能力の腕前に価値を見出したのではなく、失敗を取り戻すことが出来た実績を評価しており、余接自身もその才能に関しては高く評価しているようでした

両親から学校を卒業したら働けと言われながらも、働くすべを持ち合わせていなかった撫子が手にした職

蛇に巻きつかれた時からは思いもよらなかったオチに少し驚きつつ、漫画家と専門家の二足の草鞋を履くことになりそうな撫子は、誰にともなく語り掛けるように語り掛けます

これも蛇足だって思いますか?

感想&解説

もはや〈物語〉シリーズ恒例とも言える、後日談ですが、今回も綺麗なオチを見せてくれましたね

忍の登場というサプライズもありましたが、彼女が登場しなければ、撫子の中にあった大きな棘は刺さったままだったとも思うので、撫子が前へと進むためには必要な描写だったんでしょうね

そして、そこからまさかの仕事が決まるという展開に!

確かに、撫子の今回の行動や特殊技能を考えれば納得の仕事ではありますが、それこそ誰がこの展開を予想できただろうか(笑)

まだまだ苦労は絶えなそうな撫子ですが、一つ言えるのは、この展開は蛇足ではないということですかね

心から待ち望むこの後の撫子の物語を是非ともアニメ化してほしいものです(2024年8月時点ではまだ未発表なので)

なお、『撫物語』の最後ではありますがここでの解説は無しです

細かく言ってしまえば、撫子の部屋で撫子と忍はドラえもんについて語りあったとか入れても良かったんですが、その辺こそ、この綺麗な締めの蛇足になりそうだったので、自重しておきます(笑)

気になる方は原作を読んでみて下さいね

著:西尾維新, イラスト:VOFAN

まとめ

『撫物語』の「なでこドロー 其ノ伍」の感想&解説でした!

大好きな〈物語〉シリーズの続編が放送されて早1ヶ月

『愚物語』の「つきひアンドゥ」も単話ながらも期待通りの出来を見せてくれた内容でしたが、やはり複数話で構成された内容もまた満足感のある内容となっていて非常に良かったです!

特に今回の「なでこドロー 其ノ伍」は『撫物語』のフィナーレということもあり、自ずと期待値も上がっている状態の視聴でしたが、それに応えてくれるどころか期待以上のものを見せてくれたことは、冒頭でも語りましたが、やはり感謝の想いでいっぱいになりましたね

その感謝の気持ちを抱えつつ、次なる物語も楽しみにしたいなと思います!

そんな次なる物語は、予告が無いので明言はし難いですが、公式の告知を順当に考えれば、次からはモンスターシーズンである『業物語』になると思われます

こちらの『業物語』は短編集となっており、放送自体も『愚物語』同様、その次のエピソード『忍物語』に繋がる話が展開されていくと思われるので、怪異の王であるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの誕生秘話である「あせろらボナペティ」が次のお話になると思います

しかも、その語り部はなんとこれまでの〈物語〉シリーズに未登場のキャラである、決死にして必死にして万死の吸血鬼のデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター

これまた覚えにくい名前の吸血鬼が登場しますが、大丈夫、『業物語』と『忍物語』を見れば嫌でも覚えると思いますよ(笑)

そして、このキャラで気になるのがキャスト

現時点(8月12日時点)では、まだキャスト発表が無いので、一体誰がデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターを演じるのかにも注目しながら、続報を待ちたいところです

それでは今回はこの辺で!

また会いましょう

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