どうもウハルです!
今回は、《戯言シリーズ》の正統続編である『キドナプキディング』の内容と感想を語っていきたいと思います!
どんな内容なのか知りたい方は是非ご一読いただければと思いますが、今回はネタバレ有りになりますのでご注意ください
いきなりではありますが、まず初めに、《戯言シリーズ》を全て読んだことのある一読者として、この本を読んだ時の率直な感想を述べさせていただきます
首を洗って待った甲斐はありました!!
強烈で独特なキャラクター性はもちろんのこと、キャラ同士の掛け合いや語りで繰り広げられる言葉遊びや言葉選びのセンス、メタ発言ネタ発言の連発は非常に楽しませてもらいました!
それに加えて、過去に《戯言シリーズ》で登場した人物たちやエピソードについて触れていく部分もあったりで、当時このシリーズ作品を読んだ時に受けた驚きや衝撃を懐かしさと共に思い出すことが出来、その嬉しさも一緒に感じれたのは良かったですね
そしてこの作品は、《戯言シリーズ》に触れたことがある人はもちろんですが、《戯言シリーズ》に触れたことがない人でもその世界観を楽しめるというのも良いところ
当然、《戯言シリーズ》に触れてから読んだ方が楽しめるのは間違いないんですが、この『キドナプキディング』は正統続編でありながら、あくまで玖渚盾の物語
この作品単体として物語が成立し、しっかりと終焉を迎えているので『キドナプキディング』から《戯言シリーズ》に触れていくと言うのも問題無いと感じましたね
ただし、一つ言わせて頂くのであれば”ミステリー”を楽しみたいという人にはあまりオススメできない作品だと感じたのも正直なところ
「首切り死体」や「密室」と言ったミステリー要素がありながらも、結末としてはかなり強引だった感は否めません
なので、本格ミステリーを読みたいという方には物足りない作品かもしれませんね
その辺りも踏まえて、『キドナプキディング』の内容と感想を語っていきたいと思います
なお、基本的にはストーリーのあらましに触れながら語った内容になるので、『キドナプキディング』のあらすじ以降は完全にネタバレしています
なので、なるべく知識無しで楽しみたいと思っている方はここでブラウザバックすることをオススメします
『キドナプキディング』あらすじ
私立澄百合学園に通う玖渚盾(くなぎさじゅん)、十五歳。
『キドナプキディング』巻末のあらすじより引用
“パパの戯言”と“ママの法則”を携えた「平凡な女子高生」が、
人類最強の請負人・哀川潤に誘拐されて、
玖渚機関の牙城“玖渚城”に送り届けられてしまう!
彼女を待ち受けていたのは、青髪青眼の少女たちとの邂逅と悲惨な殺人事件。
はたして盾は謎を解き、無事に帰還することができるのか?
新青春エンタの傑作<戯言シリーズ>、大団円の先の最新作、ここに結実!
著者 | 西尾維新 |
イラスト | 竹 |
刊行 | 講談社ノベルス |
発売日 | 2023年2月8日 |
関連シリーズ | 戯言シリーズ(クビキリサイクルなど) 人間シリーズ(零崎双識の人間試験など) 最強シリーズ(人類最強の初恋など) |
西尾維新作品として最初に刊行された『クビキリサイクル』
このシリーズ作品は《戯言シリーズ》と呼ばれ、関連シリーズとしては全3シリーズになります
基本的には《戯言シリーズ》から端を発し、そこから派生して作られたのが「人間シリーズ」と「最強シリーズ」の2シリーズです
西尾作品のシリーズものは完結していないものも多いんですが、この3シリーズはすべて完結しています
また、『キドナプキディング』は《戯言シリーズ》の10作品目の続編作品になるので、他を読むのであれば《戯言シリーズ》のみで問題無いです
ちなみに、《戯言シリーズ》の各巻の順番はこういう並びになります
余談ではありますが、もしも《戯言シリーズ》9作品を電子版ではなく本を買うのであれば、文庫版の方がオススメです
というのも、ノベライズ版と文庫版とでは表紙のデザインが違うんですが、文庫版の場合、9冊の表紙全てを並べると1枚の絵として成立する仕掛けが施されています
並べ方としては、3×3の状態で上段が左から「ネコソギラジカル(上)」「クビキリサイクル」「サイコロジカル(下)」
中段が左から「クビツリハイスクール」「ネコソギラジカル(下)」「サイコロジカル(上)」
下段が左から「ヒトクイマジカル」「クビシメロマンチスト」「ネコソギラジカル(中)」です
そうすると、戯言遣いである”いーくん”のシンボルマークが浮かび上がるという遊び心がある表紙になっているので、全巻読破した後にこの一枚絵を見るとちょっと感動的な気分に浸れますよ
『キドナプキディング』内容紹介&ネタバレ感想
以下、ネタバレ
主人公は玖渚盾。誇らしき盾
『キドナプキディング』の主人公は、《戯言シリーズ》にてメインを飾っていた「戯言遣い」の”いーくん”(本名は原作でも明かされていません)と青色サヴァンこと玖渚友(くなぎさ とも)の娘・玖渚盾(くなぎさ じゅん)になります
ざっくりプロフィールを語ると…
- 名前:玖渚盾(くなぎさ じゅん)
- 年齢:15歳
- 高校は私立澄百合学園で、寮住まい
- 成績は中の上。得意科目&苦手科目は特になし
- 部活動はアメフト部とチアリーディング部に籍を置いているが、幽霊部員(入部理由はユニフォームが欲しかっただけ)
- 将来の夢は週刊少年ジャンプまたはマーベルコミックスの編集長
- 倫理観を学んだ本は、ベビーシッターが読んでくれた「幽遊白書」で心の師は仙水忍(マジで言っている)
この作品はまず最初に、玖渚盾自身による自己紹介から始まっていくんですが、その由来は父である”いーくん”が娘にきつく躾けて叩き込んできた100個ある『パパの戯言シリーズ』の内の一つが由来しています
パパの戯言シリーズ その1
まず名乗れ。誰が相手でも。そして名乗らせろ。誰が相手でも。
本編でも盾自身が言っていることではありますが、当の本人は頑なに本名を名乗ってこなかったのに、娘にはしっかりと躾けるとはこれ如何に(笑)
まぁ、名乗らなかったのも理由はありましたし、本名を名乗ってこなかったからこそ『パパの戯言シリーズ』としてはまず初めに娘に教えておきたかったというのもあるのかもしれませんけどねw(詳細は不明)
ちなみに、『パパの戯言シリーズ』は100個ありますが、ママのルールに関しては1つだけになります
ママの絶対法則
機械に触れるな
このたった1つのルールを破った場合は殺すと笑顔で言われたみたいなんですが、これは現代ではかなり苦労する絶対法則ですよね
今やスマートフォンが当たり前のように普及し、パソコン、TV、タブレット端末、カーナビ、オートロック、TVインターホン、IHコンロなどなど世の中機械に溢れているような時代です
身近なものでパッと思いついたものを挙げましたが、さらに言えば電車やバスなどと言った交通機関においても機械が使われていることが多い世の中
そういう全ての機械に対して適応されているのがこのルールなんですが、私だったら守れる気がしないですね(笑)
そんな私と違って、この絶対法則に関しては15年間しっかりと守り続けている盾なんですが、このルールにはかなり重要な意味があります
当の本人はルールを守り続けているのでその意味を知りませんが、その意味が明かされた時は西尾作品らしい極端さを垣間見ましたね
これはキディング?いいえキリングです
自己紹介も終わり、物語が始まると同時に人生が終わるかのような出来事が盾に襲い掛かります
一学期が終了し、夏休みに入るということで実家に帰省しようとしていたところ、横断歩道を渡っているといきなり車に撥ねられます
まるで身体がプリン(プディング)になったような冗談(キディング)だった。いや、虐殺(キリング)だったと言ったほうが、現実に即しているかもしれない。
この言葉遊びを交えた語りも、読みながら中々上手いものだなとは思いましたが、状態的には結構笑えない状態
その衝撃はかなりのもので、数メートル空中を浮遊し、アスファルトに叩きつけられ、気分的にはプディングならぬ大根おろしにかけられた気分になるほど
当たり前ですが全身血まみれになり、意識はもうろうとしていますが、それで終わらせないのが車で撥ねた張本人の凄いところ
撥ねた張本人は車からそのまま降りてきて、そのまま盾の頭をハイヒールの踵で踏みつぶし、気絶させて、血だらけのまま誘拐していきました
その張本人というのは、この《戯言シリーズ》において「最強」の名を冠し、その名に恥じぬ武勇伝の数々を持ち合わせ、やることなすこと規格外で、”赤”がとにかく似合う女性
彼女の名前は『人類最強の請負人』の哀川潤
彼女が盾を誘拐しに来たのは仕事で依頼された為でした
厳密に言えば、連れてくるだけで良かったので、車で撥ねる必要も誘拐という形を取る必要もなかったんですが、まぁこの普通はやらないことを普通にやるのが哀川潤らしい気もします(笑)
そして、そこから意識を取り戻した盾に仕事を依頼した依頼主や、これからどこに連れて行こうとしているのかを語り始めます
依頼主は母である玖渚友の親であり、盾にとっての祖父母に当たる玖渚羸(くなぎさ るい)と玖渚絆(くなぎさ ほだ)
連れて行こうとしているのは、兵庫県にある世界遺産で別名・玖渚城
この世界遺産を会合場所にする辺り、スケールのデカさがこれまた規格外ですが、これが出来るのはこのシリーズにおいて”玖渚”というのは日本における数少ない財閥の家系で、世界中に影響力を持つほどの企業だからこそ出来る技です
「なぜ哀川潤に盾の誘拐を依頼したのか?」というのは潤自身も把握していなかったので、本人の口からは語られませんでしたが、実は『人類最強の請負人・哀川潤』に仕事を依頼すること自体がかなりのリスク
そのリスク度合いは、世界が協定を結んで哀川潤に仕事を依頼すること自体を禁止するほど(ちなみに、その禁止令は哀川潤自身で木っ端みじんにぶっ壊したらしい)
そんな世界規模のリスクを負ってでも依頼したい理由と言うのは中々気になる展開でしたね
ちなみにですが、この説明の最中、盾は特に手当も受けていない血だらけの状態で話を聞いています
なので、常時瀕死状態w
いやほんと、冗談(キディング)みたいな虐殺(キリング)な状況ですよね
ぶっ飛んだ家族はやる事も頼み事もぶっ飛んでる
哀川潤のジェットコースター並みのドライビングテクニックによって無事に玖渚城に到着した盾を出迎えたのは、この城で働くメイド・千賀雪洞(ちが ぼんぼり)
少しだけ彼女の話をすると、彼女は《戯言シリーズ》の第一作目『クビキリサイクル』の舞台となった「鴉の濡れ場島(からすのぬればじま)」という離島で働く千賀あかり、千賀ひかり、千賀てる子の三人のメイドの娘になります
玖渚城にいるメイドは彼女だけで、滞在中は彼女が盾のお世話係になります
雪洞の登場により、やっと怪我の手当てを受けれた盾ですが、それと同時に哀川潤は退城
哀川潤の仕事は「玖渚盾を玖渚城に連行すること」だったのと、「哀川潤が踏み込んだ建物は例外なく崩壊する」という噓みたいな真の事実があったのでこの退城は致し方なしでした
じゃーな。縁が《合ったら》また会おうぜ。お互い、生き延びたらな。
”赤”と別れ、千賀雪洞に連れられて城内を案内されていると、次に出会ったのは二人の”青”
十九歳の頃の母にそっくりな玖渚遠(くなぎさ とお)と十五歳の頃の母にそっくりな玖渚近(くなぎさ ちか)の双子の従姉妹でした
年齢に関してはは、二人とも十三歳ではあるんですが見た目に関しては双子と言うのもあって瓜二つ
どころか、指紋まで一緒なんじゃないかとマジで言っているほどに見分けがつかないほど似ている二人でした
ちなみに、それぞれ髪の長さが違い、遠はロングヘアーで近はベリーショート
その髪の長さから、いつの頃の母親に似ているかを盾は判断していましたね
さらにそこから三人目の従姉妹…とはいかず、登場したのは玖渚友の兄であり、盾の叔父にあたる玖渚直(くなぎさ なお)
そして、ついに玖渚羸と玖渚絆との対面となり、盾をこの場に呼んだ理由を明かします
その理由と言うのは、かつて玖渚友が作り出した宇宙にある九つの人象衛星の修理依頼
「機械も触ったことない(厳密には触れない)十五歳の少女に何を言っているの?」というのもあると思いますが、それ以前に「人象衛星とは?」と思うので少し解説
『気象衛星』が雲の動きや気流の流れなどを観測するのであれば、この『人象衛星』は地球上にいる人の流れや人の動きなどを観測します
しかも、スマホなどの機械的なものの所有の有無にかかわらず、人の形をしていれば観測可能な人工衛星となっており、建物の中にいようと感知できる高感度センサー付きの代物です
それによって、人はどこに行き、どこに集まり、どこに帰って、どこで過ごし、誰と出会って、誰と死ぬのかというものをデータベース化し、アルゴリズム化することが出来る
使い方によっては善にも悪にもなるそんな衛星ですが、経年劣化は止められず、ついには故障してしまいました
完全に機能を失っている訳ではないものの、ほぼ使い物にはならない状態の九つの人象衛星
それを修理させるために呼んだというのが、大まかな内容になります
そんなものを過去に作ったことがある玖渚友も凄いですが、それを娘に直させようと本気で思っていた祖父母もまた凄い(笑)
普通に考えて無理だろと思いますが、祖父母がそうは考えなかった理由と言うのがしっかりありました
というのも、盾には母親からきつく言われていた絶対法則「機械に触れるな」がありますが、それを「母親と同等の技術があるが故に母親から禁止されている」と解釈してしまっているのがその理由なんですよね
その理由を聞いた上で、盾は今回の依頼を当然の如く、断ります
母親の絶対法則があるからとか、そもそも出来ないとかそう言ったこと以前に、かつて働いた母親の悪事の始末をつけないために
そうすることが、今や普通の人生を歩んでいる母への貢献だと考えて
明確にやらない意志を伝えたものの、祖父からは「そう結論を急ぐこともない」と止められ、さらに言えば、機械に触れられない都合上、電車で家にも帰省できないために、とりあえず一晩は玖渚城に泊まることにした盾
用意された部屋では落ち着かず、夜の散歩をしている時に見つけた座敷牢のほうが落ち着いたので、そこで寝ようと決め込んでいたところ、そこに玖渚遠が現れます
彼女がここに来たのは祖父の差し金ではありましたが、遠はあっさりとその理由をバラすのみならず、その他の衝撃の事実もバラし始めました
遠と近は人象衛星を修理する為だけに生み出されたクローンであるということ、そして遠隔操作で修理を試みていたものの失敗し続けているということ
さらに、人象衛星の故障は事実でありながらも、実はまだ未完成であり、人象衛星の本来の目的は人の流れをコントロールすることだったということ
この人象衛星は「人の動きを観測する」と言いましたが、それはあくまで過程
集めた膨大な人流のデータから、行きたい場所や会いたい人などを”自由”に選ばせていると思わせ、実は玖渚機関が用意した”自由”のレールの上で走らせる
”全人類の人生にレールを敷設する”
それが人象衛星の本来の目的だったという訳です
なんかどんどん話が膨大になっていきますが、こう言うことが普通に出来てしまう『天才』たちが登場するのが《戯言シリーズ》なんですよね(笑)
やる事も、考える事も、発想も、実現できてしまう才能を持っているのも、全てがぶっ飛んでます
まぁ、この《戯言シリーズ》において普通の人間が登場することってあまりないので、それが面白いと感じている理由の一つでもあるんですけどね
一つの事件と二つの着想と一つの事故
衝撃の事実を語り終えた遠はその場を去り、盾はそのまま座敷牢に留まりますが、考えていたことは母の所業
母親の若い頃のやんちゃぶりは知っていたものの、その想像を大きく超えた内容に困惑しますが、それでも母が途中でその実験を放棄してくれたことやその計画が機械の故障によって頓挫する事態になっているということに心から安心します
そこから一晩明けると、焦った様子の雪洞が盾の前に現れます
盾が用意された部屋におらず、こんなところにいるとは思ってもいなかった雪洞は探し回っていたことが明確に分かるほど息を切らしていましたが、明らかに取り乱しているのも分かる動揺ぶり
その動揺の意味はこの言葉によって判明しました
盾さまのご従姉妹さまが――殺されました!しかも、首を斬られて!
現場は盾が泊まるはずだったゲストルームで、そこに向かった盾
その部屋の畳の上に転がっていたのは裸にされている近の首なし死体
盾には最初誰の死体かの判断は出来ず、座敷牢で話をしていたというのもあって遠の死体だと勘違いしていましたが、本人の登場、遠の視認による指紋判定、裸だからこそ判断が出来た”青いにこ毛”で近の死体だと判断することが出来ました
ちなみに、遠の指紋判定に関しては叔父である直のお墨付き
遠も死んでしまった近も、写真に写る人物のピースサインを見ただけで指紋認証が出来る性能の持ち主です
そこから場所を変え、開かれる家族会議
そもそも、近親者が亡くなってまずすることが”家族会議”という時点で異常ですが、そこで取り交わされる内容はさらに常軌を逸していました
盾が提案するまで「警察を呼ぶ」という発想が無く、警察を呼んだとしても隠蔽し、内々でこの事件を揉み消そうとする玖渚家の面々
この光景に盾は驚愕し、恐怖します
取り交わされる言葉の数々を聞いていられなかった盾は、その場を離れ、座敷牢に戻り一息つきます
そして、この事件の謎を解くことを決意しました
知的好奇心の塊だからではなく、正義感や倫理観のためでもなく、仇を討ちたいからでもない
知らない誰かが殺されたことをニュースで知り、その犯人を許せないと思えるくらいには憤る
他に誰も憤らないのであれば、”普通”に憤ってみせる盾は熱い決意を滾らせました
パパの戯言シリーズ その53
許せないと感じる人間を、許せ。許されると思っている人間を、許すな。
その後、座敷牢に叔父の玖渚直が現れ、近の首だけじゃなく、人工衛星の操作端末であるデバイスも紛失していることや遠と近は玖渚友の双子の弟である玖渚焉(くなぎさ えん)の遺骨から作られたことを知ります
さらにその後、事件現場へと向かった盾は、近の死体を検分
といっても、所詮は素人なので、にこ毛の色やこの死体がマネキンではなく本当に人間なのかを確かめる程度が関の山でした
そんな折、近に別れを言うために、遠が現れます
一度座敷牢で会っているとはいえ、改めて遠の顔を見るとその顔は魅惑的
そして、そこから思い至る一つの発想
厳密にいえば、首なし死体を見た瞬間に死体を勘違いした直感が起因となっていますが、盾は全く整理していない発想を遠…いや、近にぶつけます
ねえ…あなたが犯人なの?近ちゃん。遠ちゃんを殺して、首を斬って、入れ替わったの?
この言葉に動揺する素振りすら見せず、寧ろ話を続けるように言われ、盾は推理を披露しますが…
結論から言えば大ハズレ
作品の名探偵役が大真面目に推理を披露し、その推理を大きく外すという大事故が起こりました
これに対して、盾は泣きながら土下座して謝罪
遠はあまりの謝罪ぶりに逆に戸惑ってしまいますが、自分自身も盾を疑っていたことを打ち明け、二人は和解し、そこから互いに事件の整理を始めます
- 現場は外部犯含め、誰でも出這入り可能で鍵もかかっていなかった
- 事件当夜は盾と遠は座敷牢、羸と絆は天守閣の最上階、直は櫓(やぐら)、雪洞は盾の世話係のなのでゲストルームと同じ三階の小部屋にいた
- 遠が盾を座敷牢で見つける前にゲストルームに立ち寄ったが、その時は死体は無かった
近に関しては事件当夜の動きは不明であり、それを調べる術がないと思っていた盾でしたが、遠から「その方法ならある」と言われます
厳密には「あった」の過去形になりますが、その方法とは人の動線を知ることが出来る人象衛星を使う方法
ただ、偶然映っていたとしても、もはやピンボケしている可能性の方が高く、誰が何をしているかまでは分からない
人象衛星の操作端末自体は遠も持ってはいますが、それを使って盾が仮に人象衛星を修理出来れば、近を殺した犯人が分かる可能性もありました
しかし、この行為に関しては遠に全力で止められます
絶対やめた方がいい。玖渚友から課せられたルールを破るなんて、正気じゃないって。
ルールを破ると殺すと脅されている事実より、玖渚友が課したルールという事実の説得力の方があるのが、”玖渚友”というネームバリューの高さですね(笑)
そんなやり取りの中、雪洞が現れ、近の首と近が持っていた操作端末が見つかったことを報告しに来ます
見つかったのは井戸の中で、首と端末だけじゃなく、近が着ていた服も一緒に見つかったとのこと
さらに、ここに現れた理由はその報告をしに来ただけではなく、その見つかった首が近であるということを確認してもらうためでもありました
それを了承した二人が、確認のために部屋を出ようと思った瞬間、盾は一つの着想を得ます
殺すことが目的ではなく、殺しが起きたことによる世界遺産としての価値を下げたかったのでは?
さらに、冗談(キディング)のように「二条城(にじょうじょう)の差し金か!?」と考えた時、盾はさらにその先の着想を得ました
その着想は、この事件の解決へと至るための道しるべ
盾は立ち止まり、遠と雪洞を引き留めて、近の首を確認に行くのではなく、全員を最城階に集めるよう伝えます
事件の真相と絶対法則の真相
そして、ここからが”解決編”となっていくんですが、その章が始まる前にこんな文言が入ります
十三階段が急になっておりますので、どうぞ首元にお気をつけて
この”解決編”は、本当に急でした(笑)
というのも、この事件における《謎》というのは端的に言ってしまえば二つで、死体の首を斬った理由とその犯人です
その二つが明らかになってしまえば、事件としては解決なんですよね
そして、この事件はその二つの内の一つである”首を斬った理由”が分かってしまえば、自ずと犯人が導き出せる
結論から言ってしまえば、”首を斬った理由”は【サイズ合わせ】です
死体を畳ごと移動させるために、首を斬り落とし、運びやすくした
盾は一度『死体の入れ替え』の着想を得て大事故を起こしましたが、事の真相は『殺人現場の入れ替え』
起きて半畳寝て一畳、殺して一畳が真犯人のモットーでした
「二条城(にじょうじょう)」の”にじょう”から思いついたこの着想
そして、これを実行するには階段の急さや梯子の狭さなどを考えると、三階のゲストルームと同じ階で寝泊まりしている人間でなければ実行できない
つまり、ゲストルームと同じ階で寝泊まりしているメイドの千賀雪洞がこの事件の犯人という訳です
そのことを指摘された雪洞ですが、当然、認める訳がない
物的証拠に関しても、盾は”両方の部屋の畳の色合い”しか提示できず、それに関しても「雪洞に罪を擦り付けるための別の者の犯行」で片づけられてしまうくらい、薄弱としたものです
しかし、盾には《切り札》がありました
それは、人象衛星を使っての動かぬ証拠ならぬ、動いた証拠の提示
遠からひそかに抜き取っていた操作端末を隠し持っていた盾は、その端末を雪洞に見せつけますが、それは大した脅しにはならない
なぜなら、人象衛星が故障していることは既に全員が周知の事実だから
そんなことは百も承知の上の盾ですがで、これが脅しに足るだけの材料を盾は持ち合わせていました
それは、玖渚友が盾に課した絶対法則「機械に触れるな」
その法則が「天才性ゆえ」だと思い込んだ祖父母のように、盾は口から出まかせの嘘八百を並び立て、その天才性を恐れさせます
舌先三寸口八丁。
立てば嘘つき座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義。
玖渚友の娘であり――戯言使いの娘。
盾が並べ立てる戯言の数々にも雪洞は嘲笑を浮かべるだけでしたが、それでも可能性としては危惧してしまうほどに圧倒的な玖渚友の天才性
盾から操作端末を奪おうと雪洞が動き出したその瞬間、壮大な破壊音と共にとてつもない衝撃が全員を襲います
その事象の正体は、隕石の如く落ちてきた人象衛星
九つある内の一つが玖渚城目掛けて落下し、地球に大きな穴を空けたのではないかと思えるほどのクレーターを生み出していました
さらに事態はそれだけにとどまらず、残り八つも玖渚城目掛けて落ちてくるようにプログラムが書き換えられていました
そう、玖渚友が絶対法則として「機械に触れるな」と盾にきつく躾けて来た理由は、天才性ゆえではなく、触っただけで機械を壊すほどのその『破壊性』がゆえでした
まさかの事態に全員が慌てふためく中、盾は雪洞から今回の事件の動機を聞き出そうと迫ります
それは、こんな状況で聞くことではないと分かっていはいるものの、今、盾に出来る精一杯のことでもありました
動機を言い残したまま死んでしまっていいんですか!頭のおかしい異常者として、誰にも理解されないまま、消し炭になっていいんですか!教えてくれたら、私があなたを、秒で理解しますから!あなたがどんな人間でも!あなたがどんな気持でも!
だから――あなたがやったことを、やってないなんて言うな!やったことを否定したら、あなたがあなたじゃなくなっちゃうでしょ!
その直後に襲い掛かった第二波で、盾は背中に窓格子が突き刺さり、雪洞を庇った形になったものの、強がる素振りを見せる盾
しかし、その強がりは雪洞に見透かされ、もたれかかるように雪洞に倒れる盾を受け止めながら、雪洞は犯行を認めました
その後、残り七つの衛星も全て落下し、この日、世界遺産のひとつが崩壊しました
縁が《合った》青の娘と赤い叔母
玖渚城が崩壊した後、歩いて京都まで向かっていた玖渚盾
そこに真っ赤なスーパーカーが突っ込んでくるも、同じ手は二度食わないと車を躱す
そのスーパーカーはそのままUターンして盾に横付けし、助手席へと誘います
「誰あろう」とは言うまでもなく、その運転手は哀川潤で、人象衛星が降りそそぐ中、玖渚城にいた全員を一瞬で救い出した張本人でもありました
ちなみにですが、彼女が全員を助けたのは「盾を守るために見守っていた」とかでは全くなく、単純に「隕石が落ちてきて面白そうだから行ってみた」みたいな観光のついでに助けに行っただけみたいです(笑)
そんな彼女が運転する助手席に乗り込み、盾は自分の『破壊性』について母親から聞いていなかったかを質問しますが、哀川潤は全く聞いていなかった様子
ただ、その『破壊性』は納得できる話であり、母親の血というよりは父親の血によるものではないかと話します
その口先で、あの戯言遣いは無数の人間を落としてきたのさ。人間を闇に堕としてきた。《無為式(むいしき)》とか、《なるようにならない最悪(イフナッシングイズバッド)》とか言ってよ――触れるだけで危うい超弩級の危険人物だった。あいつは何もしないのに、周囲が勝手に狂い出す。戯言遣いが人を狂わすように、お前は機械を狂わすんだろうよ。
両親の特性の食い合わせの悪さが発覚し、そこから救出後のことが語られますが、ざっくりまとめるとこんな感じですね
- 玖渚羸&絆=盾に絶縁宣言
- 玖渚直=盾の特性をビジネスに応用できないかと考慮していた
- 玖渚遠=盾の逃走経路を確保し、文通のやり取りをする約束をして送り出した
そして、肝心の千賀雪洞
彼女は救出後、改めて今回の事件の動機を盾に話しました
まず、千賀雪洞には”三人の母親”がいますが、これは実のところ”三人のクローン”という意味合いでした
玖渚友のクローンを作り出すための実験結果として生み出され、唯一の成功例である彼女は山ほどある失敗例の上で成り立っている存在
そんな彼女にとって、失敗した同期たちは姉妹のような存在であり、既に姉妹を失っている彼女には姉の後ろをついて回る妹の存在が許せなかった
タイミングとしてはいつ犯行に及んでもおかしくないくらいの殺意を日々抱いており、それが偶々、盾が訪れた日に爆発したというかなり衝動的なものだったことが明かされました
きっと、この動機を見た人は「え?それだけの事で?」と思ったかもしれませんね
これに関しては盾も同じように語っている部分があります
そう。たったそれだけの事で殺した。それ以上の動機などいらなかった。金銭も、支配も、管理も、実験も、遺産も、相続も、圧力も、上下も、いらなった。
彼女が欲しかったのは――
人によって『一番欲するもの』というのは変わってきますが、仮にそれが絶対に手に入らないと分かっている状態の中で、目の前でそれを手にしている状況を毎日見せつけられていたらどうでしょうか?
相手にとってはそんなつもりはないものでも、当人にとっては羨み、妬む要素としては十分であり、それが行き過ぎた結果、殺意へと変化することはあり得る気がします
そして、犯行に及んだ雪洞のその後に関しては明確ではありませんが、哀川潤曰く、「鴉の濡れ場島に島流しにされる」とのこと
盾は雪洞や遠の”その後”の心配をしていましたが、潤はそれよりも”盾自身のその後”の方が気になっていました
盾が持つ特性は、見方によっては《ありとあらゆる機械の天敵》であり、どんなに強固なセキュリティーも破壊し、世界中のサーバーをもノックダウンさせられる力
冗談みたいな話ですが、これはマジな話
答えろよ。誇らしき盾。お前はこれから、どこに行くんだ?
心から面白がるように笑いながら聞く哀川潤
そんな彼女に盾は笑い返してこう答えます
私はもう、どこにも行きませんよ。実家(いえ)に帰るんです
そして、最後の締めの言葉はパパの戯言で幕を閉じます
パパの戯言シリーズ その100
戯言だけどね。
まとめ
『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』の内容紹介と感想でした!
《戯言シリーズ》の正統続編ということもあり、純粋に続編モノとして楽しめる作品というだけじゃなく、この巻から《戯言シリーズ》を楽しむことも出来るような作品にもなっていたので、他の人にも薦めやすいと感じた一冊でした
ただ、今回の感想記事では事件からトリック、さらには犯人に盾の特性など内容に関してかなりネタバレをしてしまっているので、ここまでこの記事を読んでくれた人には「なにを楽しむねん」って感じる人もいそう(汗)
そう思った方に伝えたいのは、この作品に於いては西尾維新が言葉で織りなすその世界観を直接楽しんで欲しいというところ
巧みな言葉遊びのみならず、文字だけで判断できる強いキャラクター性や見事な掛け合いの数々は脳内イメージがしやすいので、すんなり《戯言シリーズ》の世界観に浸ることが出来ると思いますよ
まぁ、あえていうなら人物名が相変わらず難しい漢字が多いのが、読みにくい部分かもしれませんけどね(笑)
ちなみに私は、羸(るい)とか絆(ほだ)とか一発で読めなかったですw
そういった部分も含めて《戯言シリーズ》らしい一作だと思いますので、興味がある方は是非読んでみて下さいね!
それでは、今回はこの辺で!
また会いましょう